雪は懇々と降り駸々と積もる。
氷属性魔術を得意とする雪狼の騎士にとっては最適の季節。
それは、俺にとっても同じこと。
気分は上々、任務もバリバリこなせる……はずなのだけれど。
深深と、溜息を一つ。
生憎と、気分は下がりっぱなし。
というのも、つまらないことで相棒と喧嘩したから、だったりして。
相棒……シストとは、仲が良いと自負している。
入団した時からの仲だし、パートナーになってからもそれなりの年月が経っている。
部屋だって同じで、一緒に居る時間は相当長いだろう。
相手のことはよくよく理解出来ているつもりだ。
けれど、だ。
逆に、"ずっと一緒"に居るからこそ、起こる諍いだってある訳で。
今回の喧嘩も、馬鹿馬鹿しいものだった。
同期のアネットに相談したら、”え、そんなことで喧嘩したのか”と笑われたほど。
きっかけは本当に大したことのないもの。
冬になってただでさえ寝起きの悪いシスがあまりに起きなくて、いい加減にしろと俺が怒った。
で、シスはシスで、俺が夜更かしするから何だかんだ寝付くのが遅くなっただなんだと文句を言って。
そこからは、相手の気に食わないところをあげつらう……今思い返せば、ただの子供の喧嘩みたいなものだ。
いぎたないとか。
食い意地が張っているだとか。
無神経だのお節介だの。
……今思えば切実にくだらない、くだらないけれど。
「でも、なぁ」
俺としては、シスが寝坊して上官に怒られるのを見たくなかったから怒った訳で。
俺は悪くない、と思うんだよなぁ。
……そりゃ、確かに俺が夜更かしなのも、認めざるを得ない訳だけれど。
そう俺がぼやくのを聞いて、アネットは"さっさと謝っちまえばよいのに"とかいって、笑っていた。
でも仲直りのきっかけって、何だかんだでつかみにくいものだと思う。
いつも一緒に居るからこそ、余計に。
言い過ぎた自覚はあるし、最後の方は本当にしょうもない揚げ足取りをしたとも思っている。
謝りたい、と思うけれど、どう謝ったら良いものか。
「んぉ、エルド?」
中庭で途方に暮れていたら後ろから声をかけられて。
ふり向いてみれば、同期の一人……リシェアが居た。
「何ぼーっとしてんの?
というか、こんなとこ突っ立ってたら風邪ひくぞ?」
そう言いながら首を傾げるリシェア。
俺たちより少し年上の彼になら、何か良い方法がわかるんじゃないか。
そう思って、今日の出来事を話してみる。
リシェアは少し考える顔をしてから、言った。
「何か、相手の好きなもんでもプレゼントしたら?」
あっさりと、そんな返答があって。
「も、モノで釣るってことか?」
「おいおい言い方ってもんがあるだろうがよ」
そういって笑うリシェア。
彼は"まぁ顔を合わせてちゃんと言葉で詫びるのがベストではあるけどさ"と前おいて、いった。
「何だかんだ効果的だと思うぞ、プレゼントは。
モノだけでどうこうするのは駄目だが……それをきっかけにするのは有効な手段だ。
どうしても顔合わせにくいなら、メモつけとくとかさ」
そういう手もあるだろ?
そういって笑う、リシェアを見て、"まぁそれもそうか"と思う。
「うん、ありがとう、ヒントにはなったよ」
リシェアはならよかった、と笑って去っていく。
俺はそれを見送って、溜息を吐き出した。
「……きっかけ、か」
確かにそれが、一番必要だ。
俺はそうおもいながら、彼への"プレゼント"を考え始めたのだった。
***
プレゼントを用意して、部屋に戻る頃にはすっかり夜になっていた。
散々考え過ぎた結果、である。
モノよりは、食べ物の方が手軽で良いか、と想いはしたものの……
シスは、甘いものはそこまで好きじゃあないといっていた。
でも、シフォンケーキだけは好きだとかいってたから、とそれを選んで。
帰ってみれば、すっかり夜も更けていて。
こっそり自室に帰れば、既に明かりは消えていた。
シスの気配は感じるから、帰ってきているみたいで……
「もう寝ちゃったか」
まぁ、ある意味丁度良かった。
まだ少し、顔を合わせるには気まずかったし。
そう思いながら、ベッドで丸くなっているシストを起こさないように、ベッドのサイドテーブルに用意していたシフォンケーキとメモを置く。
シスの方が起きるのは遅いと思うけれど、まぁ、良いだろう。
さぁ、俺も寝よう。
そう思いながらベッドサイドを見て、思わず目を丸くした。
そして、思わず笑う。
シフォンケーキを買って帰ってきた時、リシェアに会った。
お前のアドバイスのおかげで何とかなるかも、といえば彼は笑っていて。
―― 喧嘩するほど仲が良い、とはよくいったもんだな。
そんなことを言われて。
訳がわからない。
その時はそう思ったのだけれど、今理解した。
なるほど、似た者同士という訳だ。
そう思いながら、俺は笑った。
俺もシストも、恐らく、同じ相手に助けを求めたんだろう。
そう思うのも、当然だろ?
テーブルにメモと一緒にプリンが置いてあったから。
―― 似た者同士 ――
(ごめん、言い過ぎた。
そんなメモが一つ、添えられていて)
(きっと、リシェに彼奴も相談したんだろう。
思考回路が似てるんだなぁ、と思えば相手のことが愛しくもなるだろ?)