ふと思い立ってアンケートしてみたら意外な子達が上位だったのでかいてみました。
アーニとサーレルのお話です。
どっちも天界を追放されてしまった天使。
でも考え方が真逆と言うか、性格が真逆というか…
そんな二人の違いを書けていたらいいなぁと思います…←
三十分クオリティですが、追記からどうぞ!
冬の冷たい風が肌を刺す。
くしゅん、と小さく可愛らしいくしゃみを漏らした亜麻色の髪の少年は小さく身震いをする。
今まで寒さに震えるという経験がなかった彼にとっては、新鮮な現象だ。
「どうせならば雪が降れば良いのに」
そんなことを呟きながら、彼……アーニは室内に入った。
本当はもう少し、この冷気を楽しみながら散歩をしたいところなのだが、先日もそうしていたために風邪を引いたばかり。
また医療部隊の世話になるのは、流石に申し訳がないと同時に、あの苦い薬を飲むのは嫌だった。
彼がこの城に保護されて、数ヵ月。
季節は移ろい、すっかり冬景色だ。
時折は雪が降って、城の中庭を真白に染める。
その様を見るのが、アーニは嫌いではなかった。
さて、と。
そう声を漏らしたアーニは食堂に足を踏み入れる。
一応まだ怪我の経過観察中という身分である彼は、騎士たちの仕事を手伝うことはできない。
本当は、憧れの天使……フィアの手伝いをしたいと思っているのだが、人間世界に不馴れなアーニを連れ出すほど、フィアは酷ではない。
女性だということをよく知っているアーニだが、あれこそが"男気溢れる"というのだろう、などと考えていた。
とはいえ、である。
一人でこうしてぶらぶら歩き回っているというのは、退屈だ。
誰か、話にでも付き合ってくれる者がいないだろうか……
そう思って視線を巡らせたアーニは、食堂の一角に腰かけている少年を見つけ、表情を輝かせる。
ぱたぱたと、子犬が駆けるようにその少年に駆け寄る。
気配に気がついてか、相手は顔をあげた。
少し長い黒髪を三つ編みにして肩に流して、青の蝶の髪飾りをつけた、金の瞳の少年。
彼はアーニの姿を見るとその瞳を細め、声をあげた。
「アーニ」
「あぁ、サーレル!」
久しぶりだね!
そういいながら、アーニは少年……サーレルの手をきゅっと握った。
「何だかんだで此処で顔を合わせるのは、はじめてじゃない?
まさか地上で会うことになるなんて思っていなかったよ」
彼はそういって、にこにこと笑う。
天界にいた頃から変わらない"昔馴染み"の反応をみて、サーレルは目を細めた。
そう。
彼らは、どちらも天使。
それも、どちらも天界を追い出されてしまった天使、なのである。
昔からよく知る間柄。
サーレルの容姿こそ変われど、アーニにとってそれは些末なことのようだった。
いつも通りににこにこと笑う幼馴染みの手を軽く握り返してやってから、サーレルは小さく息を吐く。
そしてアーニの言葉に少し口角をあげて、呟くように言った。
「それはこっちの台詞だ。それもまさか、こんな形で出会おうとはな」
何処か皮肉めいた口調でそういいながら、サーレルはアーニを見つめる。
片方の翼を悪魔に切り落とされ、その結果此処にいるという旧友。
見た目には、何処か悪いようには見えない。
「お前は、見た目は変わっていないな」
微かな安堵をにじませつつそういうと、アーニはふわりと微笑んだ。
そして少し魔力を放出して、隠していた真っ白い翼を出現させる。
本来二つで一対の翼。
その片方はまるで元からなかったかのように、出現しない。
それこそが、アーニが天界を追われた理由だった。
しかし彼は笑みを崩さない。
あっけらかんとした口調で、言う。
「まぁ、怪我をしたのは翼だけだから。
そういうサーレルは、大分変わったね……まだ痛む?」
そういいながら彼はサーレルの左目の眼帯に触れた。
躊躇いのないその手に少し驚いて金の瞳を瞬かせた後、フッと笑みをこぼして、言う。
「時々な。尤も、気のせいなのだが」
もう目はないわけだからな。
そういいながら、サーレルはそっと、アーニの手を外させる。
そんな彼の動作にサファイアの瞳を細めて、アーニは言った。
「そう、無理をしちゃ駄目だよ?」
にっこりと微笑む彼は、サーレルの目の心配こそすれど、"その容姿"に関して何かいったりはしない。
相変わらずに緩い友人の様子に苦笑を漏らして、サーレルは言った。
「変わった、というのは左目だけか?」
「ん?あぁ、瞳の色も髪の色も違うけれど……会ったらすぐにサーレルだってわかったもの。
そりゃあ、どうして悪魔の真似なんてしてるんだろうとは思ったけど」
隠し事が出来ない彼らしく、そういうアーニ。
サーレルはそれを聞くとすぅと表情を消した。
そして、静かな声でアーニに問いかける。
「……アーニ」
「ん?」
どうしたの?
無邪気に首をかしげる、友人。
その蒼の目を見つめながら、サーレルはゆっくりと口をひらいた。
「お前は、天界に戻りたいと思うか」
ぱち、とサファイアの瞳が瞬く。
それから、アーニは眉を下げた。
「何をいきなり。それは、戻りたいに決まっているだろう?
あそこが僕たちの、故郷なんだから」
いきなり変なことを聞くんだね。
そういうアーニは困惑した様子だ。
サーレルは彼の返答を聞いて、ふ、と笑みをこぼす。
「故郷、ねぇ……」
そう呟いて鼻を鳴らした彼をみて、アーニは首をかしげた。
「何か引っ掛かる言い方だね、サーレル。
サーレルはもう、帰りたくないの」
「あぁ、もうごめんだ」
一瞬の迷いもなくそう返答したサーレルに、アーニの方が面食らう。
視線を揺るがせた彼をみて、笑うと、サーレルはきっぱりと、いい放った。
「一度地上に来てはっきりわかった。
天界は、理想郷(ユートピア)に見せかけた地獄郷(ディストピア)だってな」
トチ狂った理想郷に戻るなんて、まっぴらごめんだな。
吐き捨てるようにそういった彼をみて、アーニは眉を寄せる。
いつも穏和な彼にしては珍しい表情だった。
「随分酷い言い方だね」
どうしてそう思うの、と呟くアーニ。
サーレルはそれを聞くと肩を竦めた。
「事実だ。
……土台おかしいとは思わないのか、体の一部を失くしただけで追放処分ということが」
「それは……それが掟だもの」
当たり前のことじゃないか。
呟くようにそういう、アーニ。
彼の発言にサーレルは眉を寄せて、溜め息を漏らした。
「……お前はまだ、そう思っているんだな」
「……サーレルはそうでないの?」
もはや困惑を通り越して不安になったようで、眉を下げながらアーニはそう問いかける。
よく知っていたはずの友人の口から飛び出す言葉が理解できず困惑しているのだろう。
……否、或いはそれを認めたくないだけか。
そう思いながらサーレルは言った。
「あぁ。だって考えても見ろ、アーニ。
人間は、何処か体の一部を失くしたからと言ってその人間をどうこうするか?」
「……それは」
「あぁ、言い方を間違えたな、そういった人間を迫害することは、あるかもしれない。
けれども少なくとも、そうした弱者を排除せよ、等と言う掟はないだろう?」
そんなサーレルの言葉にアーニは口をつぐみ、俯く。
……きっと彼も、わかっているのだろう。
そう思いながらサーレルは小さく息を吐き出して、呟いた。
「……人間の方が余程理性的だ。
ついでに言うなら悪魔の方が余程、慈悲深かろうよ」
「サーレルは、悪魔になりたいの?」
アーニの問いかけに、サーレルは答えない。
無言で肩を竦めると、手近にあったコーヒーカップを傾けた。
好みのままに角砂糖を放り込んだコーヒーは酷く甘ったるい。
―― 故郷のような味だな。
そんなことを思いながら、サーレルは金色の瞳を細めていたのだった。
―― 理想郷 ――
(鳥かごで生まれて鳥かごで育ったなら、そこが理想郷に決まってる。
けれども一度外に出てみれば、全く違う世界が見えるもんさ)
(どうして?平和はよいことじゃないか。
嗚呼、けれども…彼の言わんとしていることは確かに、理解できることで)