久しぶりにワンライに挑戦です。
今回のお題は「冬が来る」と「「ココアが飲みたい……」」です。
フィアとシストの話。
ほのぼのした二人を書くのは久々です。
でもこうしてあったかいモノを二人で飲む、っていいですよね。
この二人は時々、そうしてゆっくり過ごしてたらいいなぁと思います。
では、追記からお話です!
ひやりと冷えた空気。
それを感じながら、少年騎士は部屋に戻ってきた。
亜麻色の髪を冷たい風が揺らしていく。
ふぅ、と息を吐き出した彼……フィアの吐息は白く凍って、空に昇った。
それをみて、フィアは目を細める。
そして、苦笑まじりに彼は呟いた。
「いつの間にこんなに寒くなったんだ……」
つい先日までは、暑い暑いと文句を言っていたのに。
そう思いながら、彼は食堂に戻っていった。
任務の報告は夕方で良いと上官であるルカに言われている。
だからとりあえずは、休憩しよう。
そう思って食堂に入ると、見慣れた紫髪の少年の姿を見つけた。
今日は、一緒の任務ではなかった相棒……シストの姿を。
「シスト」
そう声をかけると、彼は顔を上げた。
書類の仕事でもしていたのか、眼鏡をかけている。
「おお、お帰り、フィア」
お疲れ。
そういって笑うシスト。
フィアは"ありがとう"と返しながら、彼に首を傾げて見せた。
「隣、良いか?」
「いいよ。何か飲むか?」
コーヒー?紅茶?
そう問いかけるシストに、フィアは少し悩む顔をする。
そしてぼそ、と小さな声で言った。
「……ココアが、良いな」
「え?」
少し意外そうに目を見開く、シスト。
フィアはかっと頬を赤く染めて、いった。
「……悪いか」
そんな彼を見て、シストはアメジスト色の瞳を瞬かせた。
そして、ふっと笑みを浮かべると、首を振った。
「悪くないよ、ちょっと待ってろ」
用意してやる。
そういって、シストは席を立った。
フィアはそれに素直に甘えて、待つことにした。
少しして、シストは湯気を立てるマグカップを持ってフィアのところに戻ってきた。
そして、"はいよ"といってフィアにカップを差し出す。
「熱いから気をつけて飲めよ」
そういわれて、フィアは苦笑する。
"子供じゃあるまいし"といいながら、受け取ったカップに口を付けた。
「でも、珍しいな」
そういわれて、フィアは視線をあげる。
シストはそんな彼を見て小さく笑いながら、いった。
「フィアがココア飲むの、初めて見た気がする」
彼はいつもコーヒーか紅茶を飲んでいるイメージがあった。
ココアなんて子供っぽい、と一蹴しそうなイメージがあったのだ。
しかし、だ。
よくよく考えたら、フィアは元々かなり甘党。
ココアが好きでも、なんの不思議もないよな、とシストは思う。
と、フィアは一瞬視線を揺るがせた後、ふっと息を吐き出した。
そして、呟くような声で言う。
「……ルカには言うなよ」
馬鹿にされるから。
そういうフィア。
シストはそれを聞いてきょとんとした顔をした。
「ルカ?」
「……彼奴は俺をすぐに子ども扱いするから」
小さくそういうと、彼はぷいっとそっぽを向いてしまった。
そんな彼を見て暫し驚いたような顔をしていたフィアだったが、やがてふっと笑みをこぼした。
なるほどな、とシストは思う。
彼の従兄であるルカは、かなり過保護だ。
ともすれば、兄か何かにでも見えるくらいに。
だから、だろう。
ルカがフィアを年下というか、子ども扱いすることもあるのだろう。
その結果が、普段フィアがココアは飲まない、ということに繋がったのだろう。
「なるほどな。
まぁ、言わないから安心しろよ」
そういって、にっと笑うシスト。
若干疑わし気な彼を見て、シストは苦笑を漏らしながら、いった。
「言わないって。
でも……一つだけ、冗談があるからな」
そういって笑うシスト。
フィアは少し眉を寄せつつ、言った。
「……なんだ」
あんまり無理な内容だと困る。
そういって困った顔をするフィアを見て、シストは笑みを浮かべた。
「たまに、こうやって一緒にお茶にしよう」
その時は俺がこうやって、ココア入れてやるよ。
そういって笑う、シスト。
あまりに意外な内容にフィアは驚いて、蒼い瞳を見開いた。
「……そんなことか」
「そんなこと、っていうなら良いよな」
きまりだ。
そういいながらシストは自分のカップを傾ける。
フィアは暫し目を丸くしていたが、やがてふっと笑った。
「……あぁ、わかった」
それくらいならば、付き合ってやる。
そういいながら、フィアはシストが淹れてくれたココアを口に含んだ。
「……これからはもっと寒くなるしな」
暖かい飲み物の出番も増えるだろう。
そういうフィアは何処か期待している風で……
「そうだなぁ。
幾ら氷属性魔術使いで寒さには強いっていったって限界あるからな」
そういって苦笑するシスト。
しかし彼も何処か楽しそうに、冬を待ち遠しく思っているように見えた。
―― 寒くなったら… ――
(また、こうして一緒にあたたかいものでも飲もう。
好きなモノをカップに入れて、体を温めよう)
(相棒と、戦闘以外の時間を過ごすのも悪くない。
こうして、のんびりと語らうのも…――)