ルガルとアルマのお話です。
ツイッターでリクエストをいただいたので…
ちょっと不健全な?表現含みます。
苦手な方はご注意を。
ルガルは可愛い顔をして毒舌というか口が悪いというか。
そんな彼の無鉄砲さとか、それでも人が好きなところをかけていればなぁ、と思います。
ともあれ、追記からお話です!
静かな森の奥に佇む、小さな小屋。
そこに向かうのは、二つの影。
ひとつは小柄で、ひとつは大柄。
小柄な影は興味深そうにきょろきょろと周囲を見渡している。
「こういった場所に来るのははじめてかい?」
そう問いかける大きな影。
彼の言葉に隣を歩いていた小さな少年は顔をあげて、にこりと微笑みながら頷いた。
「はじめてです。騎士になってからも、街中での仕事が多かったですから」
そういって微笑む少年は、ミラジェリオ王国騎士団に所属する騎士。
少し癖のある白髪に、桃色の瞳。
まるでウサギのような少年だ。
それを見つめる男の目が妖しくきらめく。
それに気づく様子もなく、少年は無邪気に男についていった。
森奥の小さな小屋。
そこに入った男は後ろ手に鍵を閉める。
薄暗い小屋のなかに入れられた少年は不思議そうに首をかしげた。
「おじさま?明かりがありません」
「必要ないよ……ああ、明るい方が好きならそうしてやるけどね」
男はそういうや否や、少年の華奢な体を押し倒した。
埃っぽい床のうえ。
巨体にのしかかられて、少年は痛みに顔を歪める。
男は笑みを浮かべ、少年の顔を見た。
こういった幼げな少年に"ちょっかい"を出すことを趣味とするこの男は、怯えた少年の顔を見るのが好きだった。
少し街をうろうろすれば、こういった世間知らずの子供を見つけられる。
あとは簡単だ。
一緒にお茶にしないかとさそったり、今日のように騎士だったりすれば少し困っていることがあるから手伝ってほしいと声をかけたり。
被害者が訴えでることはほとんどない。
その恐れがあるような相手は、処分していた。
このウサギのような少年はどんな顔をするだろう?
そう思いながら男は少年の顔を見て……大きく目を見開いた。
「……やれやれ。待つまでもなかったか」
こんなに早く尻尾を出してくれるとは思わなかったよ。
白髪の少年はそう呟くや否や、華奢な足を思いきり突っ張って、自分のからだの上にのし掛かる男を蹴飛ばした。
「うぐっ……」
思わぬ衝撃に怯む男。
手が緩んだ隙に少年は抜け出す。
そしてそのまま素早く、男を床に組み敷いた。
にぃ、と笑みを浮かべる少年。
ウサギのようだと思った少年が、今は山猫かなにかのように見える。
「子供だと思って油断したでしょ。
おあいにくさま。僕はそんなに簡単に食われやしないよ」
―― そんなに安い体でもないしね。
そういって笑う少年。
男はぐっと唇を噛みしめ、少年の腕を振り払った。
辛うじて自由になった左手で、ポケットに忍ばせていたナイフを取り出す。
「なめやがって……っ!」
そう声をあげると同時、男はむちゃくちゃに腕を振り回した。
何処に当たってもいい。
この生意気な騎士の動きを止めることができれば。
いっそ殺してしまってもいい。
そう思いながら。
しかし少年はあっさりとそのナイフを躱した。
そしてやれやれ、というように息を吐き出す。
「ねぇ、アンタそのでっかい頭で何考えてんの」
―― そんな攻撃通用すると思ってる?
そんな言葉と同時。
少年はひらりと身を躱す。
そして男が体を起こすより先にその男の首筋に抜いた剣を当てた。
「……どうする。王国の騎士への無体は陛下への侮辱と同じだよ。
この場で首をハネても僕は罰されない訳だけど」
正当な裁判受けたいでしょ。
勝ち目ないってわかってたってさ。
そういって冷たく笑う、少年。
―― ウサギなんてとんでもない。
そう思いながら男は覚悟したように目を閉じて、両手をあげたのだった。
***
小屋を出て、ぱんぱんと服を払う白髪の少年……ルガル。
彼は溜め息を吐き出した。
「全く……囮捜査も楽じゃないよね」
そう呟く。
汚れた制服を見ながらこれは洗濯しないといけないなぁ、などとのんきに考えた、その時。
「いてっ」
ぽかり、と誰かに頭を叩かれた。
むっとした顔をしてその犯人を見れば、ルガルよりずっと背の高い青年があきれたようにたっている。
「まったく……無茶のしすぎです。私が行くまで待っていろと言ったでしょうに」
「でもアルマ、あいつ小屋に入ってすぐに僕を押し倒したんだよ?
なに、ヤられちゃえって言うわけ?」
むくれたように唇を尖らせるルガル。
幼い顔に不似合いな発言にやれやれと肩を竦めつつ、青年……アルマはいった。
「それならそれで緊急だと伝えればいいでしょう。
私は空間移動術が使えますし」
「あーはいはい、わかったよ。
でも腹たったからさっさと片付けちゃった」
うまくいったんだから問題ないでしょ?
そういって首をかしげるルガル。
アルマは少し眉を寄せて……そんな彼の頬に触れた。
「いて」
小さく声をあげる。
アルマが触れた彼の頬は、浅く切れていた。
「無事、という訳ではなさそうですけどね」
「う、うるさいなぁ!掠っただけだって」
「ルゥ。無理はしないでほしいといっているんですよ」
アルマが真剣な声色で言う。
それを聞いてルガルは口をつぐんだ。
ルゥ、という愛称。
それを呼ぶのは、彼と国王だけだ。
しかも目の前の青年がそう呼ぶのは、真面目な話をしている時だけで。
「貴方が傷つけば陛下が悲しみます。
貴方は陛下の御心を傷つけるつもりなのですか?」
「……そんなわけないじゃん。
騎士にちょっかい出す大馬鹿がいるからとっちめようと思ったのだって……」
陛下のためだし。
ルガルはそういってそっぽを向く。
―― わかっている。
優しい国王は、きっと事件が解決したって自分が傷ついたと知れば悲しむだろう。
だから、怪我をしないようになんとかすればいいと思ったけれど……
実際は、こんなものだ。
ああしてナイフを振り回されるのも覚悟はしていたが、無傷ですむ自信はなかったし。
「無茶はしないでください、ルゥ」
約束ですよ。
そういってアルマは微笑む。
穏やかだけれど……有無を言わせぬ笑み。
それを見てルガルは溜め息をはきだして、肩を竦めながら、いった。
「……わかったよ」
できるだけ、ね。
そういうルガル。
彼の柔らかな白髪を風が撫でていく。
「……ねぇ、アルマ」
「ん?どうしました?」
「……アズル様が心を痛めるようなことがない国にしたいよね」
ぽつり。
呟くような言葉は、その風にかき消されそうだった。
しかしそれを聞いてアルマは目を細める。
そして"そのためのお手伝いをするのが私たちの仕事ですからね"と穏やかな声で言う。
そう。
騎士は王を、国を守る剣だ。
そのために自分達は力をつけなければならない。
そう思いながら二人の騎士はそっと、自分の剣に触れたのだった。
―― Knight ――
(騎士は王を守る剣。
それは、王の体を守るだけではない、心を守るための剣だと思っている)
(優しいあの方はすべてを愛しているから。
あの方が愛するすべてを守るために私たちは強くならなくてはならないのですよ)