大佐殿とフォルのお話です。
「望まぬ魔力と…」の続きで。
フォルが要らないことを提案しそうだなぁという話でした
*attention*
大佐殿とフォルのお話です
シリアスなお話です
IFネタです
「望まぬ魔力と…」の続きです
フォルの言葉に揺らぐ大佐殿を書きたくて
とりあえず悪趣味な堕天使がすみません←
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当に澄みませんでした!
以上がokという方は追記からどうぞ!
ふ、と目が開く。
ゆっくりと瞬きをした隻眼の少年はゆっくりと体を起こして、周囲を見渡した。
なにも変わらぬ、自分の部屋。
"隣に温もりがない"いつも通りの、自分の部屋だ。
時計をちらとみる。
とっくに、遅刻と言える時間だった。
―― 大佐ぁ、起きてくださいよぉ
―― クラウス兄さん、朝だよ……
そう、自分を起こす声が聞こえた気がした。
それが幻聴であるということにはすぐに気づいてしまったけれど……
一人で体を起こして、一人で身支度をする。
起こしに来てくれる人間も、仕度を手伝ってくれる人間もいない、この部屋で。
上着に腕を通すのにも、ボタンを止めるのにも時間がかかる。
やっとのことで支度を終えた時には既に仕事を開始しているべき時間になっていた。
別に、いい。
今は、仕事をしてはいるものの細かく時間を決められてはいない状態だから。
そう思いながら、シュタウフェンベルクは一人で食堂に向かった。
食堂に入る。
まだ朝食を終えていない騎士がちらほらいて……
彼が食堂に足を踏み入れると同時に、一瞬水をうったようにその場が静かになった。
大分その状況にもなれてしまった。
そう思いながらシュタウフェンベルクは適当に空いたスペースで朝食をとる。
殆ど味もしないのは、恐らくもう体の方がおかしくなっているのだろう。
そう思いつつ、彼はもくもくと食事を済ませて、部屋に戻った。
ほんの、一週間前。
その、ほんの一時。
それが彼の全てを変えた。
悪魔との対決。
仲間の笑顔。
そしてぶつけ合った魔力と……その結末。
結果から言えば、彼の最大の目標であった"悪魔祓い"は成功した。
悪魔は死に、祓魔師は生き残った。
しかし"勝者"にとって、齎された未来は酷でしかなかった。
生き残ったのは、祓魔師だけだったから。
悪魔(ヒトラー)は死んだ。
人殺し、と笑顔で詰りに来た堕天使(フォル)も殺めた。
そんな、戦いのなかで……祓魔師(シュタウフェンベルク)の仲間は、皆死んだ。
戦いに巻き込まれて。
或いは、シュタウフェンベルクを庇って。
目的は果たされた。
しかしこれほどの代償を払った上でそれは、為されるべき立ったのだろうか……?
最近は、一人になるとそればかり考える。
考えたところで詮無いことはもうわかりきっているのだけれど。
受け入れたつもりだった。
それでも心の方は、乗り越えられるはずがなくて。
「ふぅ……」
少し書類にペンを走らせたところでその手が止まる。
自分一人だけがほぼ無傷で生き残ってしまったことがわかってしまって酷く辛かった。
……以前なら。
こうして一人で黙々と仕事をこなしていれば、小さな手でコーヒーの入ったカップを手渡してくれる弟がいた。
僕に出来ることがあれば手伝いますよ、と声をかけに来てくれた副官がいた。
無理をしていないかと気にかけてくれる長兄がいた。
ほどほどに休みなさいなと苦笑混じりにいってくれた年上の友人がいた。
……みんなみんな、彼の手が届かないところにいってしまった。
何よりも守りたかったものなのに……
何が間違っていた?
どうしたら、この未来を防げた?
どれだけ考えても、思い浮かばない。
自分が死んで皆が救われるのならそれで良かったのに。
そんな未来は、なかったのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えていた、そのとき。
―― だからいったのに。
不意に聞こえた声。
それにシュタウフェンベルクははっとして周囲を見渡す。
"聞こえる筈がない"声だった。
「何……」
「あれ、もう僕の声忘れちゃったの?」
幻聴とは明らかに違うはっきりした声が、耳元で聞こえた。
シュタウフェンベルクは思わず飛び退く。
そんな彼の背後にたっていたのは……殺したはずの、堕天使で。
「な、んで……」
「さぁ、何ででしょう?」
にこにこと笑うフォル。
彼は、死んだはずなのに……死人には見えない。
シュタウフェンベルクはそれを見てはっとした顔をした。
「どうして」
「それ聞いてもなにも変わんないよ。生憎だけど、僕が死んでないだけで君の大事な人たちは確かに死んだんだから」
フォルにそういわれて、思いしる。
あぁそうか。
自分は、この堕天使が生きているのを見て……期待したのか。
自分以外の大切な人たちが、生きているのではないか、と。
「……っ」
「馬鹿だなぁ、だから僕は警告したのに」
こんな辛い世界が訪れることだって予想出来ただろう?
フォルはそういってにこりと笑う。
楽しむような表情の彼を、シュタウフェンベルクは睨み付けた。
しかしフォルは一切動揺した様子なく、目を細めた。
そして、シュタウフェンベルクの耳元に甘く囁く。
「……ねぇ、大佐殿。君なら、"この未来"を変えられるんだよ?」
甘い堕天使の囁き。
それを聞いて、シュタウフェンベルクは青い瞳を見開いた。
「変え……」
「変えられるよ。僕の力を使えば、完璧にね……」
そういって堕天使はシュタウフェンベルクの頬を撫でる。
それはまるで慈しむような、柔らかい手つきで。
「ね、大佐殿……君は救いたいんだろう?愛おしい副官君も、大切なお兄さんも、親しかった友達も、可愛い弟も……」
優しい君だもの。
君一人が生きていることの方が辛いに決まっているよねえ。
本当は後悔しているんだろう?
こうなるなら、悪魔を殺すことなかった、って。
現実からの逃避を促す堕天使。
彼のサファイアの瞳は今までにないほどに輝き、宝石のようだった。
シュタウフェンベルクの唇が戦慄く。
今にも、"どうすればいい"と問うてしまいそうだった。
平気なフリをした。
けれど、平気なはずがなかった。
大切な人がいない。
自分一人が生き残った、この現実は受け入れきれなくて……――
しかし理性が止める。
堕天使の囁きに耳を貸すな、と。
きっとろくなことにならない、と。
フォルもとっくにそんな彼の心情には気づいていた。
だから彼はふわりと笑って、いう。
「……逃げてもいいじゃない。だって、君は戦い抜いたんだから」
―― この世界でどれだけ頑張ったところで、誰も君を認める人間なんていないんだよ……?
そう囁くフォル。
それを聞いてシュタウフェンベルクは大きく目を見開いた。
揺れる、揺れる、青い瞳。
震える唇。
表情は固く強張っているが、泣き出しそうなそれだ。
―― あぁ、楽しい。
フォルはそう思いながら目を細める。
そして狙った獲物が堕ちるのを待つかのように微笑みながら、彼の頬を撫でていたのだった……――
―― Whisper… ――
(囁く、甘く、甘く…
ほら、こちら側へ来てしまえば楽になれるんだよ)
(ダメだ、と心は警鐘を鳴らす。
それでも…手を伸ばしたくなる、愛おしい人たちの幻に)