西さんとメイアンの死ねたの後日談です。
強いて言うなら、ウラヌスさんとメイアンのお話です←
*attention*
西さんとウラヌスさんのお話です
西さんとメイアンの死ねたなお話の続きです
IFネタです
シリアスなお話です
メイアンは一人にされるのに怯えそうだなって
ウラヌスさんと西さんの話は史実より
カルセに八つ当たりなメイアン
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした!
以上がOKと言う方は追記からどうぞ!
ぱちり、と目を開ける。
ゆっくり瞬く、緑の瞳。
一瞬ぼんやりとした表情を浮かべた金髪の彼……メイアンは小さく息を漏らした。
「夢……」
そう、呟く。
そんな彼の緑の瞳を、涙が濡らした。
―― 夢を、見た。
幸福な、夢。
否、ほんの少し前までは、現実だった夢を。
愛しい恋人と一緒に、いた。
それだけで幸福な夢だった。
そして、彼と……西と一緒に、笑いあう夢だった。
一緒に乗馬をした。
剣術の練習に付き合ってもらった。
一緒に夕食をとって、一緒に二人でひとつのベッドに眠る……
その夢は、まるで幸せだった日々をたどるようだった。
ほんの少し前……西が、任務の中で命を落とすまでは、当たり前だった日々。
それが一気に崩れてしまったのは、ほんの一週間前の話だった。
メイアンがいるのは、彼が滞在していた城……ディアロ城。
彼が使っていた、部屋だった。
本当はいつも通りに自分の家に帰るつもりだった。
しかし、この城に滞在している旧友……カルセがそれを許さなかったのだ。
不安、だったのだろう。
メイアンが、早まったことをするのではないか、と……
それほどメイアンが西を愛しく思っていたことを、カルセもよく知っている。
放っておいたら、彼が西のあとをおってしまうのではないか、と不安になっても不思議ではない。
事実……
メイアン自身、自分が一人になったら何をするかわからない、と言う気分ではいた。
城にいれば、旧友であるカルセもいるし、西の相棒であったウラヌスもいる。
彼らと一緒にいれば幾らか気分も紛れるのだ。
しかし、いつも一人になると耐えがたい孤独に涙した。
いつもなら隣にいてくれた温もりがなくなってしまったことが、辛くて、苦しくて……――
今は、仕事も休んでいる。
下手に仕事をしたところで怪我をするのが関の山だろうと言う上の判断だった。
とはいえ、だ。
仕事もなく、出掛ける気力も場所も一緒に出掛ける人間もない……
そんな状態では、どんどん塞ぎこんでいくばかりだった。
元々華奢な方ではあったけれど、更に体重は落ちた。
いつも手入れをかかさなかった金色の髪も、適当に背に流されている。
そんな彼のことを多くの人間が気にかけていたけれど、彼を上手く慰められる者はいなかった。
まるで……
メイアンと出会う前の西のようだと、誰かがいっていた。
「とにかく、起きないと……」
小さくそう呟いたメイアンはベッドに体を起こす。
そして、サイドテーブルにおいていた小さな包みを手にした。
綺麗な布に包まれた、もの。
それは、西の軍服の上着のボタン。
最期に言葉を交わしたときに、メイアンが彼の服からとってきたものだった。
「……おはよう、西」
そう、小さなボタンに声をかけてキスをする。
ボタンはひやりとした感触を返してきただけだった。
愛しい彼にしたキスとは、全く違う。
そう思いながらメイアンはベッドから降りたのだった。
***
食堂でコーヒーだけを喉に通して、メイアンは外にでた。
照りつける、強い日差し。
それは、あの日のそれとあまり変わらない。
それが、辛かった。
綺麗すぎるほど晴れ渡った青空。
雲は固まって浮かんでいる。
それを見上げて、メイアンは目を細める。
「……いい天気、ね」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
無論その声に答える者はなくメイアンは小さく息を吐き出した。
そして彼はゆっくりと足を進めていく。
早起きな騎士たちもまだ、仕事には向かわない時間だった。
暑くなるより前。
こうして、彼が向かうのは……厩だった。
愛しい人……西が可愛がっていた愛馬ウラヌスがいる場所……
此処に来て、彼の愛馬と話をするのが、メイアンにとっての安らぎだった。
ウラヌスは頭が良い馬で、メイアンがどうして此処に一人で来るのかも、メイアンが悲しんでいることも、理解しているようだった。
ウラヌスも、悲しそうだった。
それはそうだろう、と思った。
自分よりずっと長く、一緒にいたというのだから。
だから、だからこそ……
こうして、悲しみを共有できる"友"がまだいてくれることに、安堵していたのかもしれない。
いつも通りに、メイアンは厩の中に入る。
白馬が多いこの厩で、ウラヌスはとても目立つ。
もう何処にいるのかも、覚えていた。
しかし。
今日は、いつもと様子が、違っていた。
「……ウラヌス?」
異変にはすぐに気がついた。
いつもならば自分が近づけば嘶いてくれるのに、それがない。
そればかりか、見慣れたあの美しい黒毛が見えない。
嫌な、感じがした。
そして、ウラヌスを繋いでいる場所についたメイアンは思わず凍りついた。
そこにいたウラヌスは、地面に崩れていた。
力強く地を蹴っていた足を地面に投げ出して、大きな体を横たえて。
「ちょっと……ウラヌス?」
震える声で、友の名前を呼ぶ。
時に、嫉妬さえ向けた、愛しい恋人の愛馬の名前を。
中に入って、そっとウラヌスに触れる。
その体はすでに、冷たくなっていた。
「ウラヌス……」
そう呼びながら、メイアンはウラヌスの体を撫でる。
もう、反応しないウラヌスの体を。
メイアンは目を伏せる。
そんな彼の緑の瞳から涙がこぼれ落ちる。
それは、既に息絶えたウラヌスの体を濡らしていった。
「貴方も……私を、一人にするの……?」
掠れた涙声で、メイアンはそういう。
貴方も、私をおいていくのか。
私を、一人にするのかと。
西とウラヌスが親しいことは知っていた。
ウラヌスが西の死をとても悲しんでいたことも。
でも……
ウラヌスまでも、死んでしまうなんて。
「どうして……ねぇ、どうして……?」
彼は次々に涙をこぼしていた。
静かな厩に谺する、メイアンの泣き声……
それを止めるものは、もう何もいなかった。
***
しんと、静まり返った部屋。
そこに一度、弱いノックの音が響いた。
しかしそれに、部屋の中にいる人間……メイアンは応えない。
しかしドアは開いて、中に人が入ってきた。
美しい、淡水色の髪の男性……カルセ。
彼はベッドに蹲ったままのメイアンにそっと歩み寄った。
そして、そっと彼の肩に触れる。
「……メイアン」
西はそっと、メイアンを呼ぶ。
しかしその声にもメイアンは顔をあげなかった。
カルセは眉を下げつつ、彼に言う。
「メイアン……ご飯食べないと」
「要らないわ」
短く答えるメイアン。
彼はぎゅっと小さな包みを握りしめている。
それは、西のボタン……そして、ウラヌスの鬣だった。
西がそうしていたと聞いて、メイアンもウラヌスから少し、鬣をもらったのだ。
大切な友の、形見として。
「放っておいて……」
短く、そっけなく、メイアンはそういう。
カルセはそういうわけにもいかないと、メイアンの腕を引いた。
「っやめてっていってるでしょ!」
泣き声で、メイアンはそう叫ぶ。
そしてカルセの腕を振りほどいて、布団に潜ってしまった。
カルセは震えるその布団を見つめる。
そして小さく息を吐き出した。
彼も、よく知っている。
恋人を亡くす悲しみは。
……一人きりになる、辛さは。
暫く放っておいてやった方がいいのか。
そう思いながら、カルセは小さく息を吐き出したのだった。
―― Don't leave me alone… ――
(お願いだから、おいていかないで。
一人は嫌なのよ、怖いのよ…)
(震える彼の背から、感じ取れる。
一人にされた悲しみも、苦しみも…)