久々にフィアとルカのお話です。
昔からずっと一緒にいた二人のこういうやり取りが書いてみたくて…
フィアの「ウサギがほしい」発言は、本当にあったらかわいいなぁと思いました。
でもよくよく考えたら彼らの世界では月のうさぎはいないのかな、と思いつつ…
まぁ、たぶん何処かで聞いたんでしょう、と言うことに(^q^)
ともあれ、追記からお話ですよー!
賑やかな笑い声と、談笑が響く。
色とりどりの酒に料理。
それらが並ぶ宴会中のホールから、亜麻色の髪の少年……フィアはそっと抜け出した。
賑やかな場所は、元々あまり得意ではない。
まぁ、仲間内のパーティだからそれは別に良いとして、アルコールの匂いが苦手なのだ。
それゆえに、彼はこうして外に出てきている。
ただ外に出るのも、面白くない。
そう思いながら、フィアは城の階段を上った。
たどり着いたのは城の屋上。
大きな、バルコニー。
そこからフィアは空を見上げる。
綺麗な、満月だ。
そう思いながらフィアは目を細める。
冬のような、綺麗に磨かれたような月も好きだったが、夏場独特の雰囲気の中で見る月も好きだった。
そんな空を見上げながら、フィアは小さく息を吐き出した。
と、そのとき。
「なぁに黄昏てんだ?」
不意に後ろで聞こえた声に驚いて、フィアは振り向く。
そこにたっている人物を見てフィアはすぐに体の力を抜いた。
「いきなり声をかけるな……驚くだろう」
バカ、とフィアに言われて苦笑を浮かべた黒髪の少年……ルカは"悪い悪い"と言う。
そして、フィアがそうしていたように月を見上げて、ルビーの瞳を細めつつ、いった。
「ほぉ……見事な月だな」
「お前でもそんなこと、思うんだな」
てっきり月より酒の方が好きなんだと、と皮肉るようにフィアは言う。
それを聞いてルカは眉を寄せつつ、いった。
「……別に、酒ばっかり飲んでるわけじゃねぇだろ」
「どうだか」
そういいつつフィアは肩を竦める。
彼自身は弱く、ほとんどアルコールは飲めない。
飲んですぐに顔を真っ赤にして潰れてしまう、あげくのはてには悪い癖……基、甘え癖が出るものだから、ルカも無理に飲ませはしない。
……もっとも、負けず嫌いなフィアだから、挑発にのれば飲みもするのだけれど。
ちら、とフィアはルカを見る。
彼の手には、グラスがひとつ。
恐らくアルコールだ。
ルカは自分と違ってかなり強いからな……そう思いつつ、フィアはいった。
「飲み過ぎるなよ」
「お?心配してくれてんのか?」
ルカは従弟の発言に笑みを浮かべて、そういう。
フィアはそれを聞くとふん、と鼻を鳴らして、いった。
「誰が貴様の心配など……
部隊長が二日酔いで動けないなんてことになったら、雪狼の品位に関わるといっているんだ」
自惚れるな、といいながらフィアはバルコニーにもたれ掛かる。
そして、綺麗な満月を見上げた。
ルカはそんな彼の発言に"そんなことだろうと思ったよ"と苦笑しつつ、グラスを傾けた。
そして、月を見上げる従弟を見つめる。
白っぽい月明かりに照らされたフィアの顔は、まるで絵画を切り取ったようだ。
色の白い肌に柔らかな亜麻色の髪。
小さな唇は紅色、頬は暑さゆえにか少しだけ染まっている。
よほど戦いが激しくならない限り見せない姿ではあるのだが、一瞬彼の姿が天使のそれに見えてルカはゆっくりと目を閉じた。
「……ルカ?」
聞こえた声で、目を開ける。
すると月を見上げていたサファイアの瞳が、じっと自分を見つめていた。
……やや心配そうに。
「……どうした」
そっけない口調ではあるが、自分を心配していることを感じさせる声。
それを聞いて、ルカは目を細めながらいった。
「いや……何でもないよ。
やっぱりちょっと酔ってるのかもしれないな」
苦笑混じりにそう答える。
変に感傷的になっている辺り、やはり酔っているのかもしれない、と。
しかしフィアはそれとはまた違う意味ととったようで、眉を下げつついった。
「……少し座っていたらどうだ」
どうやら、ルカが目を閉じていたのは立ちくらみを起こしたからとでも思ったらしい。
何度か彼の前でつぶれたりもしたから心配させるのも当然か。
そう思いつつルカは彼の好意をむげにしまいとそうするよ、といって座った。
「……水、持ってこようか」
フィアは気遣わしげにそういう。
冷たくそっけない態度をとるわりに案外と心配性なのは昔からだ。
そう思いつつ、ルカは首をふって、いった。
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
そういいながらルカは顔をあげる。
見事な満月だ。
そう思いながら、彼はふと思い出したことを口に出した。
「そういえばさ、フィア」
「何だ?」
「お前、月を見ながらうさぎさんがほしい、って言い出したの覚えてるか?」
唐突な、昔話。
しかも幼い自分の言動を蒸し返されて、フィアは思わず固まった。
ルカはそんな彼の反応を見て笑う。
"その様子じゃあ覚えてるみたいだな"といって笑いながら、彼はいった。
「懐かしいなぁ……お前、あんなちっちゃかったのに、それでもちゃんと女の子七なぁって思ったよ」
「う、うるさい!何年前の話をしているんだ馬鹿!」
顔を真っ赤にして、フィアはそう声をあげる。
しかしそれは、その事が記憶にあると認めているようなものだ。
ルカはそれを見ながら、言う。
「月にはうさぎがいる、なんていう異国の話を親父さんに聞いて、それを本気にしてうさぎがほしい、ってさ。
あれはじめて聞いたときはいったいどうしたんだろうと思ったよ。
森で野うさぎ捕まえてきてやろうか、っていったら違うって言いやがるしさ」
「る、ルカ、もうその話……」
「じゃあどんなウサギがほしいんだよって聞いたら"月にいるうさぎさんがほしい"って……」
「ルカ!」
いい加減にしてくれ!とフィアは叫ぶ。
顔はもうすでに、真っ赤だ。
むしろ羞恥で泣きそうなのか頬ばかりでなく、目も真っ赤である。
流石に少し虐めすぎたか、と思いながらルカはいった。
「別に悪くてからかってるわけじゃねぇよ?
あのときのフィアは本当にかわいかったなぁって……」
「かわいいとかいうな!もう!」
そういいながらフィアはぷいとそっぽを向いてしまった。
短い亜麻色の髪が、夜の風に揺れる。
それを見つめながら、ルカは目を細めた。
「……でかく、なったなぁ」
「当たり前だろう。もう17だぞ」
そっけなくそう答えるフィア。
それを聞いてルカは笑う。
そうだよなぁ、と苦笑した彼は何処か嬉しそうに、いった。
「ここまで、無事に育ってくれてよかった」
ふとこぼれたのは、そんなことば。
それを聞いてフィアは振り向き、首をかしげる。
「……本当にどうしたんだルカ、酔っぱらって何処かに頭でもぶつけたんじゃないか」
真顔でそういうフィア。
それを聞いて苦笑しつつ、ルカは"失礼だな"という。
「ほんとにそう思っただけだよ。
でも、まぁ……酔ってるからこんなこと思ったんだろうな」
そういいつつルカは立ち上がる。
そして自分より少し背が低いフィアの頭を撫でながら、いった。
「フィアも早いとこ部屋に帰れよ?風邪ひくぞ」
「……わかった」
おやすみ。
そんなフィアの声に微笑みつつ、ルカは自分の部屋に帰る。
フィアはそんな彼の大きな背中を見送りながら、"それは俺の台詞でもあるぞ……"と小さく呟いたのだった。
―― 積み上げてきたもの ――
(信頼、想い出、そんなことばだけでは語れない、何か。
ずっと傍にいたんだよな、なんて今さらのように思う)
(だって、そうじゃないか。お前の方が子の仕事に就いていた時間は長い。
いつ死ぬかもわからない仕事をしている"家族"を持つのはなかなかに辛いものなんだぞ)