ふとやってみたいと話になった、フォルスタのIFパロ小説です。
色々設定盛り込もうと思ったら…とりあえず、出会い編というかなんというかになりました←
いつものことですねすみません…←←
*attention*
フォルスタのお話です。
IFパロ設定なお話です。
異端とされた聖女と堕天使のお話です。
火刑に処された結果に火傷が残る、というシチュが萌えるな、と…←
フォルは基本通常運転です(笑)
復讐を手伝うという名目で近づきつつ本心は…というやり取りをしたくて(ぇ)
とりあえず、出会い編的な…もう少し掘り下げていろいろやってみたいです←こら
IFパロなんです!!
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
静かな、静かな、夜。
とある村の広場には、人だかりができていた。
その中心にあるのは、火刑台。
足元に積み上げられた、薪。
そこにくくりつけられているのは、美しい浅緑の髪の、"聖女"……――
その刑場には、村人たちが集いその"魔女"の処刑のときを待っていた。
「男の身で聖女を騙る等、穢らわしい」
「村の者を欺いた魔女」
そんな嘲りの言葉は、体をくくりつけられ、自由を奪われた"彼"にも聞こえていた。
容赦のない村人たちの言葉に、浅緑の髪の聖女……スターリンは目を伏せる。
彼は、確かに男の身でありながら、女性として、聖女として、その村にとどまっていた。
そうせざるを得ない、理由があったから。
代々聖女が生まれる家に、そのとき娘が生まれなかった。
そうしたままに、親たちは死に、遺されたのは美しい、浅緑の髪の少年。
妖術は申し分なかった。
そして、女性として過ごしたとしても違和感がない美しい容姿。
とるべき道は、ひとつだった。
聖女がいない、その状況は、この村に大きな混乱をもたらすであろうから。
男であることを隠し、女として振る舞い、聖女としてその務めを果たしてきた。
事実、その真実が明るみに出るまでは、村の人々は彼を聖女として奉った。
子供たちは彼に戯れ、祈りを捧げた。
スターリンは出来うる限り、村の人々に尽くして来たつもりだ。
それなのに……
「その仕打ちが……――」
この村の人たちに尽くしてきた。この村の人たちを守ってきた。
ずっとずっと、祈ってきた。この村の人々の、幸福を。
それなのに、その返しが、これか。
足元の木に炎を放たれたその瞬間、スターリンの口元には薄く、笑みが浮かんだ。
それと同時、頬を伝い落ちていったのは透明な、雫。
全身を炎に包まれても、不思議と熱さは感じなかった。
ただただ、恐怖、悲痛。そして……――
その思いを抱いたまま意識を失うその刹那、スターリンの瞳に映ったのは、漆黒の羽だった。
***
どれくらい、した頃だろう。
ずいぶん長く眠っていたときのような感が、体を包んでいた。
「ん……んん……?」
スターリンは小さく呻いて、目を開ける。
美しい琥珀の瞳に映ったのは、見慣れない天井。
体を包む温もりと柔らかさから、何処かに寝かされているらしいと言うことを認識した。
肌が少し、ひきつるような感覚。
それに違和を感じつつ、少し開いた目でみれば、
自分の服装は火刑の直前に着替えさせられたあのみすぼらしい服ではなく、
綺麗なフリルのついた、黒の服。
聖女と呼ばれたその頃に着ていたそれによく似ている。
いったいこれはどうしたことか、とスターリンが少し困惑した、そのとき。
「あ、目が覚めた?」
そんな、男の声が聞こえた。
男にしてはやや高い……少年のような、声。
それが聞こえると同時、スターリンの目の前に亜麻色の髪にサファイアの瞳の少年が入り込んできた。
それを見て、スターリンは琥珀の瞳を大きく見開く。
思わずベッドの上に体を起こした彼を見て、亜麻色の髪の少年はくすくすと笑っていた。
まるで子供のように無邪気な笑み。
いったい、彼は何者?
「あ、貴方は……?」
スターリンがそう問いかけると、目の前にいる少年はサファイアの瞳をスッと細めた。
そして、小さく首をかしげつつ、柔らかな声で言う。
「丁寧な口調にならなくても良いよ。君はもう、聖女じゃない」
そんな彼の言葉に、スターリンはますます驚いた。
自分と彼とは初対面。
なのに、彼はどうして自分が"聖女"と呼ばれていたこと、
そして今はもう聖女でないことを知っている?
村の人間だったら少なくとも一度は姿を見ているはず。
引っ越してきた人間だとしても、一度は村の象徴(シンボル)である彼に、会いに来ているはずだから。
でも、どんなに記憶を探っても、今目の前にいる亜麻色の髪の彼の姿は見つからない。
スターリンは家のなかでしかしなかった、"男として"の口調で、彼に問いかけた。
「……お前は、何者なのだよ……?」
そんな彼の言葉に、問いかけに、亜麻色の髪の少年は満足そうに微笑んだ。
そして、一度恭しく頭を下げると、にこりと笑って、答えて見せた。
「僕はフォル。堕天使だよ、聖女様」
「堕天使……」
スターリンはそう復唱した。
それは、異端の存在。
人々の生活を守り、支える天使や聖女と対をなす、悪魔と同じ、その存在……
どうしてそんなものが、自分の目の前にいるのだろう。
スターリンは怪訝そうな顔をする。
フォルと名乗ったその堕天使は、ふわりと無邪気な笑みを浮かべる。
まるで、子供のようなその笑みに、スターリンは困惑した。
悪魔だとか、堕天使だとか……
そういったものは、総じて邪悪なイメージがあった。
少なくとも、今目の前にいる少年のような姿は、到底浮かばない。
スターリンはフォルに、問いかけてみた。
「お前が堕天使だと言うのなら……何で、俺の前にいるのだよ?」
彼の問いかけに、フォルはくすくすと笑った。
まだ今一つ状況が飲み込みきれていないスターリンの様子をみて目を細めつつ、彼は答えた。
「堕ちた聖女様の手助けをしようと思ってね」
「手助け?」
なんの、とスターリンが問おうとすると同時……
フォルはすっと、スターリンの頬に手を当てた。
驚いたように目を見開くスターリン。
その琥珀の瞳を見つめてから、フォルはそっと、スターリンの耳元に囁いた。
「復讐の、手助けだよ」
その言葉に、スターリンは思わず息を飲んだ。
復讐?誰が?誰に?
……答えは、本当はとっくに出ていた。
「憎いと思ったでしょう?仕返しをしたいと思ったでしょう?
君を蔑み、火刑に処した、あの村の人たちに」
囁くフォルの声は、まるで薬か何かのように、スターリンの心を乱し、酔わす。
瞳を揺るがせる彼を見つめながら、フォルは彼の頬をなで、言葉を紡いでいった。
「あんまりだと思うじゃない。
それまでずっと村の聖女として奉ってきた癖に、男だとわかった途端にその扱い」
そうは思わない?とフォルは言う。
スターリンは唇を噛んだ。
嗚呼、思っているとも。
ずっと自分が守ってきた人たちの尊敬が、感謝が、愛情が……
不審に、侮蔑に、憎悪に変わる瞬間をありありと見た。
男であるとバレた途端に、周囲から向けられる視線は冷たくなった。
そして、あれよあれよと言う間に異端審問、
魔女裁判にかけられ火刑に処されることとなった。
どうやら、村には聖女がいないことよりも、
魔女のいることの方が問題だったらしい。
弁解する猶予さえ与えられぬまま、刑は執行された。
切なかった。悲しかった。苦しかった。
……憎かった。
フォルはそんな彼を見つめ、微笑む。
「だから、僕が助けてあげる。力になるよ、君の力にね」
―― どうせ僕らは"異端"同士。
堕ちた天使と、魔女とされた聖女。
それはどちらも異端だから。
そういいつつ、堕天使は聖女に誘いをかける。
「僕の魔術で良かったら、あの人たちに復讐する手立てを教えてあげる。
大丈夫、君は元々強い力を持っているから、簡単さ」
無論、スターリンは躊躇った。
幾ら魔女として火刑に処されたといっても、元々は由緒正しき聖女の家の生まれ。
穢れとされる堕天使と"契約"を交わすなど、もっての外だ。
でも……――
目の前で微笑む堕天使はあまりに優しく、暖かかった。
火刑に処されるその間際まで冷たい視線と言葉をぶつけられていた彼にとって、
その暖かさはあまりに心地よく……
気がつけば、その堕天使の華奢な手を、握り返そうとしていた。
しかし、それより先にフォルが付け足すように言葉を放った。
「ま、当然ただと言う訳にはいかないけどね。それ相応の対価はもらうよ?」
「対価、って……」
スターリンは少しだけ、怯えたような顔をした。
対価、といえば大概は命だとか、寿命だとか……そういったものだろう。
何せ、相手は堕天使だ。
天使と名はつけど、悪魔の類いである。
そんな彼の思考を読んだのか、フォルは声をあげて笑った。
「ははは、そんなはずないじゃない。命なんて取りようがないじゃない」
そんな彼の言葉に、スターリンは幾度かまばたきをした。
そして、小さく溜め息を吐き出しつつ、呟く。
「……やっぱり、俺は……――」
火刑に処されたのは事実、真実、現実なのか。
そう、思う。
夢だったと思うことはできなかったのだが、フォルがあまりにも普通に話しかけてくるため、
何より自分もあまりに普通に話せる、動けるため、
もしかしたらあれは間違いだったのではないかと、そう思ってしまったのだ。
でも、自分はきっと死んだのだろう。
スターリンは、そう思った。
自分はもう死んでしまったから、命など取りようがないといっているのかと……
しかし、フォルはそんな彼を見て、優しく首を振って見せた。
「死んでないよ。僕が、魔術で君を死なせなかったから」
そういいつつ、フォルは少し躊躇ってから、
"驚くかもしれないんだけど"と言いつつ、ポケットから取り出した鏡をスターリンに向けた。
それを覗き込んだスターリンははっとした顔をする。
左側の、頬。そこにはくっきりと火傷の痕が残っている。
これは、紛れもなく自分が火刑に処された証拠だろう。
痛みはないが、少々痛々しい。
フォルはその火傷の痕に、そっと指を這わせた。
「ごめんね、これだけは上手に治せなかったんだ」
すまなそうにそう詫びる、フォル。
スターリンはそんな彼をしげしげと見つめた。
そして、純粋な疑問を彼にぶつける。
「何で、そんなこと……」
わざわざ、彼が自分なんかを助けた理由がわからない。
しかも、今の口ぶりだとある程度の傷も治してくれたのだろう。
どうして、わざわざそんなことをしてくれたのだだろう?
全然、わからない。
だって、彼と……フォルとは、完全に初対面なのだから。
そんなスターリンの言葉に、フォルは悪戯っぽく笑ってみせた。
「君がそのまま死んでしまうには惜しいと思ったから。
言うなれば……気まぐれ、かな?」
そういいつつ、フォルは軽くウインクを投げた。
「堕天使の気まぐれがてら、呪いのひとつでもかけてみない?
君の綺麗なこの顔に傷をつけた奴等に」
ね?と微笑んだ、堕天使。
魔女と呼ばれた聖女は今度こそ、おずおずと堕天使の華奢な手をぎゅっと握り返した。
***
それから、スターリンはフォルと一緒に、彼の住処に住むことになった。
彼いわく、此処はスターリンがいた国から少し南にいったところ。
寒いところが苦手だと言うこの堕天使は、行動の拠点を比較的暖かいこの土地においたらしい。
拠点と入っても、空間をある程度自由に移動出来るために、行動範囲は相当広いらしいのだけれど。
そこで、スターリンはフォルに呪術を学んだ。
今まで守る術しか知らなかった彼に、それは難しかったけれど……フォルは、根気強く教えてくれた。
叱ることはせず、まめにアドバイス等しながら。
スターリンはそんな彼に教わりながら、呪術を学んだ。
すべてはそう……
自分を蔑み、排除した、あの村の人間への復讐のために。
もっぱら、フォルの住む古い廃墟の中庭で練習をした。
そこには、殆ど人も通らないから。
流石にスターリンの頬に残る火傷の痕は、痛々しい。
フォルと一緒に街中に出ていくときには、
着ている黒い服のフードを被って顔が見えないようにしている。
そんな彼を見て怪訝そうな顔をする街の人たちもいるが、
その度フォルが"見習いの修道女なんだよ"と周囲に説明していた。
その修行の関係上、顔が見えないようにしているのだ、と。
そうして街を歩きながら、フォルはくすくすと笑っていた。
"堕天使と元聖女が一緒に歩いてるってのも楽しいよね"と。
ともあれ、街中を歩くことはあまり多くない。
普段はフォルが住んでいる屋敷で呪術の練習をしていた。
まずは魔力を固定して、安定させる方法から。
フォルはそれをスターリンに教え、いつも少し離れた場所から見守っていた。
魔力が安定しないと、呪術は上手くかからない。
あまり近くに人がいては(否、フォルは人ではないけれど)気が散るだろう、と、
いつも少し離れたところにいたのだった。
そんな、ある日。
いつものように訓練をしていたスターリンは、
やっとのことでコツを掴んだようで、いつもならば数秒で消えてしまう魔法陣を何十秒ももたせることに成功した。
それが嬉しくて、スターリンはフォルを呼んだ。
「フォル、大分性能上がって……」
上がってきただろう、とスターリンは振り向きがてらにフォルにいった。
しかし、いつもなら、"すごいすごい!"といいながら、飛び付いてくるのに……返事はない。
一体、どうして?
「フォル?」
スターリンは呼びながら、フォルの姿を探した。
いつもならば、すぐ傍に彼はいてくれるのだ。
いつもなら、そう、いつもなら……――
でも幾ら呼んでも返事はなく、辺りを見渡しても姿は見えなかった。
焦った。怯えた。怖かった。
彼はいったい、何処にいった?
嗚呼、彼は気まぐれだとそういっていた。
もしかして、飽きてしまったのだろうか。
聖女に呪いを教える、そんな"遊戯(あそび)"に。
でも、だとしたら自分はどうしたら良い?
スターリンは、そう焦った。
こんな、中途半端に放り出されて。
どうやって生きていけば良い?
何より……
―― 一人が、怖い。
スターリンは、そう感じた。
もう、裏切られるのは嫌だった。
フォルのことを信じたから、あの手をとったのに。
それなのに……
また、裏切られたのだろうか。
また、一人にされたのだろうか……
スターリンが小さく肩を震わせたそのときだった。
泣き出しそうな顔をして周囲を見渡すスターリンの体を、誰かがぎゅっと抱き締めた。
スターリンは思わず悲鳴をあげる。
しかし、彼を抱き締めたその腕は、よく見知った彼のそれで……
「僕がいなくて怖かったの?聖女様」
「っフォル……!」
スターリンは掠れた声で、堕天使の名を呼んだ。
彼を抱き締めているのは、他でもない亜麻色の髪の堕天使。
彼はスターリンの様子を見て目を細めると、更に質問を重ねた。
「姿が見えなくて、不安になった?」
スターリンは顔を歪めて、フォルの胸に顔を埋める。
それが、答えだった。
怖かった、怖かったのだ。
彼がいなくなることが。
彼に、裏切られることが……――
フォルはそれを見て、ふわりと笑った。
そして、愛しそうにスターリンの頬に口付けると、低く甘い声で、彼の耳元に囁いた。
「可愛いヒト……僕は、君を裏切らないよ」
「本当、に?」
スターリンは顔をあげ、フォルを見上げた。
怯えと不審、それを同時にともした彼の表情をみて微笑むと、
フォルはしっかりと頷いた。
そして、ふっと笑みを浮かべると、スターリンに言う。
「……そろそろ、教えてあげるよ。僕が君に求める対価」
「え……」
どうして、このタイミングで?スターリンがそんな顔をすると同時、
フォルは彼の唇を塞いだ。
ほんの、一瞬の口づけ。
スターリンは何が起きたのかわからないと言うような表情で、固まった。
フォルはそれを見て悪戯な子供のように笑うと、いった。
「君が、ほしい」
「は……」
戸惑いの声をあげるスターリンの華奢な体を、フォルはしっかりと抱き締めた。
逃がさない、離さない、そういうように。
「僕のものになってよ……僕だけの、聖女様に……
やっと、僕の傍に来てくれたのに」
「や、っと……?」
いったいどういうことか、とスターリンはフォルに問いかけた。
フォルは切なそうに微笑みながら、彼に言う。
「君は気づかなかったかもしれないけれど……僕は、ずっと君をみていたんだよ」
予想外の言葉。スターリンは思わず、言葉を失う。
みていた?自分を?
フォルはそんな彼を愛しげに抱き締めながら、いった。
「ずっと、見てた。
聖女として生きる、君の姿を。
流石に、堕天使の僕が傍にいくことは出来なかったから、遠くからみていただけだったけれど」
ずっと、ずっとみていた。
美しい、少年。
美しい、"聖女"を。
いつか、傍にいきたい。話したい。
そう思えど、それは叶わない。
自分は、異端だから。
強引に会うことも出来るとは思っていたが、それで嫌われたのでは本末転倒。
だから、機会を窺っていたと言う。
「君が、火刑に処されてよかったとは言わないよ。
でも……そのお陰で、僕はこうして君と一緒にいることが出来る」
そういいながら、フォルはスターリンの頬の火傷をそうっと撫でた。
愛しげに、微笑みながら。
―― 本当は。
復讐なんてどうでもよかった。
村の人間たちが死のうがいきようが、フォルには関係ない。
きっと、スターリンもそこまで強い憎悪を抱いていた訳ではない。
フォルが手出しをしなければ、そのまま普通に死んでいたことだろう。
けれど……
堕天使は、それをひとつのチャンスと捉えた。
ずっと、ずっと、みていた、愛しい聖女と共に過ごすための、チャンスと。
だから、持ちかけた。自分が手伝うから、復讐をしようと。
その目的の達成如何は二の次三の次。
フォルにとって大事なのは……
スターリンに自分の存在を大切なものと思ってもらうことだった。
どうやら、それは成功したらしい。
だって今、姿を消していた時……
彼はとても不安げな顔で、自分を探していたから。
自分が寂しかったかと問いかけたとき、彼は自分の胸に顔を埋めたから。
彼を、完全に自分の方に堕とすのが目的だった。
自分に依存させて、自分を求めるようにするのが、目的だった。
そういいながら、フォルは抱き寄せたスターリンの唇を塞ぐ。
今度はさっきのような一瞬のものではなく、長く深いキスを続ける。
「!っ、ん、んんぅ……」
スターリンの口から、甘い吐息がこぼれた。
戸惑い、少しの恐怖を感じながら、スターリンは彼にされるがままになる。
なにも、わからない。
けれど……
この感覚は、なに?
ふわふわと甘く酔うような、そんな感覚。
フォルは苦しげに息を洩らす彼を見て、漸く唇を解放した。
「は、ぁ……あ、ぁ……」
甘い声を漏らしたスターリンは、かくんと膝を折りそうになる。
フォルはそれを慌てて支えた。
はぁはぁ、と甘く速い呼吸をする彼を見て、フォルはくすくすと笑った。
「あぁ、そっか。
聖女様じゃ、こんなこともしたことないね」
キスも、もちろんそれ以上のことも、聖女にとっては禁忌だったはずだから。
聖女は、潔癖でなくてはならない。
でも、そんなもの……
堕天使の前では、無関係だ。
フォルはスターリンの耳元に、甘い声を落とす。
「でも、もう良いよね。君は、もう聖女じゃない」
フォルはそういいながら、自分にもたれ掛かっているスターリンの服に手をかけた。
ぴくりと体を強張らせる彼の体に触れる。
緩く撫でれば、スターリンは驚いたように体を跳ねさせた。
訳がわからない、怖い。
そんな表情を浮かべる聖女を見つめ、堕天使は微笑む。
もう、我慢なんてしてあげられない。
君が、僕に堕ちただろう?
だから、だから……――
「君は僕の、僕だけの聖女様だから。
僕の願いを、叶えてくれるだろう?」
そういいながら、フォルはそっとスターリンの頬の火傷の痕に触れた。
スターリンは反射的にそれを隠そうとするように、顔を伏せようとする。
しかし、フォルはそれを許さず、スターリンの頬の上にキスを落とした。
緩く、彼の身体を抱きしめながら。
「……っフォル……っ」
いや、と呟くようにいったスターリンの声は無意識のそれか。
甘い甘い口づけが嫌なのか、はたまた醜いと見えるであろう傷に触れられたくないのか。
そう思いつつフォルは目を細めて、もう一度聖女の唇を奪った。
柔らかな黒い服の裾を、風が揺らす。
堕天使はそんな聖女にキスをして、その体に触れた。
「絶対に、君を手放したりしないよ。守るし、傍にいてあげる。
教えてあげる……
ずっと傍にいて、いろんなことを教えてあげるよ」
僕だけの愛しい聖女様。
そうささやいた堕天使は甘く笑って、愛しい聖女の華奢な体をぎゅっと抱き締めたのだった。
―― A holy woman is in love with a fallen angel. ――
(顔に傷を負った美しき"聖女"は堕天使に恋をする
味方でいると微笑んだ堕天使の策に落ちた先に待つものは…?)
(復讐はあくまでも名目なんだ。
僕はただ、君に会いたかった、君の傍に居たかっただけ…)
2014-4-30 21:49