シストとアネットという珍しいペアでのSSです。
女兄弟がいるという接点しかなくてあんまり関わり合わない二人…
なんだろう、アネットの方が年上のはずなのにシストのが年上感が…(笑)
二人ともなんだかキャラが迷走していますが、追記からお話です!
「ふぅ……今日は明るいうちに帰ってこれたな……」
そう呟きながら食堂へ歩いていくのは長い紫の髪を背に流した少年。
任務を終えて戻ってきた彼……
シストは休憩しようと思って、食堂に向かっていた。
彼のパートナーであるフィアは中庭で彼の親友とあって、そのまま話し込んでいる。
わざわざそれを邪魔することもないか、と先に戻ることにした次第である。
昼のピークを越えたそこは今はやや静かだ。
シスト同様に任務を終えて帰ってきた騎士がぱらぱらと休憩している程度。
そのなかにシストは見知った人間の顔を見つけた。
短い、赤髪の少年。
彼が食堂にいることは決して珍しくないが
、彼が一人でいること、
そして何やら書類らしきものを前にしてせっせと作業をしていることは珍しい。
「アネット、何してるんだ?」
テーブルで何やらやっているアネットにシストは声をかけた。
アネットは彼の声に顔をあげて、"おぅ、シスト!"と笑顔で応じる。
「手紙書いてたんだー。今日は午後時間あったから」
そういってアネットは手元を見せる。
彼の手元には筆記用具の代わりに、
特殊な形をした道具……点字を打つための道具があった。
アネットの妹であるマリンは生まれつき目が見えない。
視力のない彼女のために、アネットは点字を覚えたという。
壊滅的に記憶力が弱く、勉強嫌いなアネットなのだが、
それの勉強だけは熱心にやったというのだから、妹のことは余程大切なのだろう。
シストはその返答に"なるほどな"と納得した顔をした。
筆無精なアネットが手紙を書く相手といったら、
彼の妹であるマリンの他になかろう。
「なるほどな。
お前、こういうことに関してはマメだよなぁ……」
普段は様々な面で適当で、しょっちゅう統率官に叱られているアネット。
そんな彼がこうして声をかけるまで気づかないほど熱心に作業をしていることは
割りと彼と親しい方であるシストからしてみても正直珍しい。
アネットは自分に対するそんな評価を感じてか、ちょっと仏頂面をした。
「失礼なこというなー。俺だってたまにはこういうこともちゃんとするよ!」
「はは、でもやっぱりたまに、なんじゃないかよ」
シストはそうツッコミをいれて笑う。
アネットはさらにむくれたが、すぐに表情を戻していった。
「ま、事実だけどな。書類の仕事とか俺できねぇし」
「出来ないのかよ」
「あぁ、前にやったら誤字脱字だらけでアレク様に叱られた」
「おいおい……」
そこまで出来ないやつは早々いないぞ、といってシストは笑う。
どうやら上戸に入ったらしい。
笑い続けるシストに、アネットは不機嫌そうな顔をした。
「そ、そこまで笑うことないだろ!?」
「いや、だって仮にも騎士なのに……
仮にも次期統率官候補者なのに書類整理が全くできないって……
ははは、お前の部下になるやつは苦労しそうだなぁ」
笑いながらシストはそういう。
アネットの戦士としての実力は申し分ないため、
アレクの次の代の炎豹統率官はアネットになるんじゃないかという話は、よく聞く噂で。
けれども、統率官ともなれば書類任務は免れまい。
その場合苦労するのは恐らく彼の部下になるであろう人間だろう。
アネットはそんなシストの様子にむくれつつ、精一杯の皮肉を返した。
「シストみたいにか?」
「ごもっとも、その通り」
シストもどちらかというとそのたちである。
彼の統率官であるルカは書類整理が苦手で、しょっちゅうシストに任せている。
シストはそこまで書類任務を苦だと思わないため、引き受けてしまっているのだが。
シストはひとしきり笑うと、目尻に溜まっていた涙を脱ぐって、微笑んだ。
「でも、妹さん、喜ぶんじゃないか?
お兄ちゃんから手紙が来るのはやっぱり嬉しいもんだろ、たぶん」
「あぁ、すごい喜ぶって母ちゃんがいってた。
だからもうちょいマメに書いてやれればいいんだけど……なかなか難しくてな」
アネットはそういって苦笑する。
彼の言葉通り、騎士の仕事は決して楽ではない。
時間的に余裕があったとしても体力回復に努めなければならなかったり、
次の任務地への移動に時間を使ったりする。
こうしてゆっくり過ごせる時間はありそうでない。
そのタイミングでアネットはふと思い出したように言った。
「シストもたまには姉ちゃんに手紙かいたらどうだ?」
お前も姉ちゃんいるじゃん、とアネットはいう。
その言葉にシストが一瞬固まった。
そして、溜め息をはいてから彼はいう。
「……あのな、アネット。俺の姉貴が誰だか忘れたか?
手紙なんか出した日にゃ届いた瞬間に空間移動で飛んでくるに決まってる」
「……やったことあるんだな」
アネットの言葉にシストは呻いて俯く。
どうやら、事実らしい。
「一回喜ばせてやろうと思って出したら……
直接会いたくなったから来ちゃった!だぞ?
……もう二度とやらない。会いたけりゃ勝手に来るしな、あの人は」
「はは、確かに」
シストの嘆きにもにた発言にアネットも苦笑気味だ。
周りにああ言ったタイプの女性はあまりいなかったため、
若干引きぎみになるのはシストも知っている。
ともあれ、といってシストは咳払いをひとつ。
「まぁ……たまには家にも帰ってやれよ。アネットの家も、城からあんまり遠くないだろ?」
「まぁなー」
アネットはそういいながら自分で打ち込んだ点字の手紙を確認する。
誤字がないと判断すると封筒にいれて、可愛らしいシールで留めた。
「次の任務の時にでも出しにいくかなー……
それか、街に買い出しにでもいくときか」
「忘れるなよ」
アネットならやりかねない、とシストはツッコミをいれる。
むくれたアネットは"わかってるっての"と返し、二人は笑う。
穏やかな秋の光のなか、二人の騎士は互いの家族への思いを胸に抱いていた。
―― Letter ――
(まぁ、アネットのいう通りたまには手紙を書いてやるのもいいかな…
飛んでこられて"イタズラ"されるのは遠慮したいところだけど)
(文字じゃない文字はまるで秘密のやり取りみたいだね、って妹は笑ってた。
大事な家族のためならば頑張って何でも書いてみせるさ)