久々にフォルとルカでのSSです。
フィアフォル和解後設定ですが…この二人は和解する気配なしですね←
フォルは自分の生活("恋人"との)を守るためにも
ルカとの対立を解けるものなら解いて起きたいんじゃないかなぁ、と…
そうは問屋が下ろさないのですよ、フォル(ぇ)
ともあれ、久々に書いたのでフォルもキャラが行方不明ですが、追記からどうぞ!
静かな暗い森の奥……
そこで魔獣討伐の任務をこなしたルカは黒服の少年と向かい合っていた。
年は自分より幾らか上のはずなのに、
何処か幼さを残したその少年はルカに剣を突き付けられても平然としている。
一瞬、風が止んだ。ルカはそのタイミングで静かに口を開いた。
「……何でお前が此処にいるのかを教えてもらいたいもんだな……フォル」
ルカが紡いだのはかつて戦った、
自分の従弟の実兄である、堕天使……フォルだった。
封印された存在であるはずの彼が目の前に存在していること、
そして何より自分の前に狙ったように姿を現したことに驚きと怪訝を抱きつつ、
ルカは彼に問いかける。
亜麻色の髪の堕天使はくすり、と笑った。
「さて、何ででしょうか?」
にこり、と笑ってフォルはいう。
ルカは顔をしかめてそれを睨んだ。
その視線にフォルは小さく肩を竦めて、"やっぱり無理だね"と呟く。
何のことかとルカが訊ねる前に、フォルは言った。
「少し時間があけば何か変わるかな、と思ったけど……駄目みたいだね。
君は僕のことを受け入れてくれないだろうな、と改めて感じたよ。
その、憎悪の視線……少しも、変わってない。
まぁ、僕もフィアとは和解できても君のことだけは許せないしちょうどいいか……
君は、僕が欲したものを奪った。
そして、もう一度奪える位置(ポジション)にいる」
「いっている意味がわからないな」
さっきからフォルがいっていることが要領を得ない。
ルカは怪訝そうな顔をするばかりだ。
フォルはぐ、とルカに顔を近づけた。
驚いたルカが剣を握る腕に力を込めても、フォルは怯まない。
「……僕はね、もう自分がほしいと思ったものを失いたくないんだ」
ルカはそんな彼の言葉に、声に驚いた顔をした。
その声は、聞いたことがない……――
少なくとも、ルカが知るなかでは聞いたことがない、フォルの声だった。
フィアを取り戻すために戦ったあのとき、フォルはひたすらに笑いながら、
しかしその笑いの奥に冷淡さを秘めて話していた。
今の声は……それとは、違う。
けれど、ルカはすぐに冷静に戻ると、フォルに言った。
「お前がほしいと思ってるものが何で、俺に何を求めているかは知らんが……
お前のことを許せというならそれは無理だ。
お前はかつて俺たちの村に何をした?
それも忘れてこうしてのこのこ俺の前に現れたのか?
今すぐ斬り捨てることだって俺にはできるぞ」
ルカはそういって凄む。
フォルはたいして動じた様子なく、肩をすくめた。
「やっぱり、話し合いは求めようとするだけ無駄か……
君のその態度が話し合いなんてできない、て根拠だよね……
ねぇ、黒髪の騎士様。
君のいってることは過去の過ちを水に流せない、という意味でいいかな?
だとしたら、君たちと一緒にいる彼らはどうなの?」
痛い指摘にルカは言葉を飲み込む。
フォルが示しているのは恐らく、ヒトラーたち……フラグメントのことだ。
ルカもあまり詳しくは知らないが、彼らは"独裁者"で、
一般に言えば他者から眉を顰められるようなことをしていた、らしい。
フォルのいう通り、"過去を水に流せない"としたら、
彼らのことも認めない、ということになる。
しかし、ルカはそうは思わない。
今の彼らは今の彼らであり、大切な仲間だ。
過去は過去、今は今、と思っている。
連携して戦うことが多い夜鷲の騎士にしても、
和解後に良く顔を合わせるようになったカルフィナの騎士達にしても。
他の人間にはそう思えるのに、フォルのことを許せないのは……――
ルカはそんな自分の汚いところから目を背けるようにして、フォルにいう。
「俺の仲間たちは違う。
彼奴らもかつては間違ったことをしたかもしれない。
でも、今は俺たちのかけがえのない仲間だ。
そう思えるだけの記憶を、俺たちは共有してきた。
じゃあ、お前はどうだ?
かつてお前がしたことを、それを見返せるだけの何かを、お前はしたのか。
実の両親を殺して、フィアの両親を殺したその罪の償いが出来るほどの何かを」
ルカの言葉にフォルは笑う。
その笑みは複雑なものだった。
馬鹿にしたような笑いとも、自嘲的な笑みとも少し違う、笑いかた。
「ふーん……それは、僕だから許せない、って解釈にしていい?
僕が君たちに協力すると言ったところで、君はきっと僕を信じないでしょ。
最初から前提が破綻してる。
僕が挽回する舞台を君は与えるつもりないじゃないか。
僕が君たち……否、君に以前のことの償いをして見せようとしても、
君はそれを新たな裏切りへの布石だと考えるだろ?
君は敵が憎いんじゃない。僕が憎いんだ。
フィアの両親を殺して、あのこの運命を狂わせた僕が」
フォルのまっすぐな指摘に、一瞬、ルカが言葉を失った。
暫し弁解の術を探していたようだが……
諦めたように溜め息を吐いて、ルカはいう。
「そうだよ、俺は、お前だから許せないんだ。
他の奴等なら、過去も何もかもリセットできる。
でも、お前にたいしてはどうしても無理だ」
そこなのだ。
あくまで、個人的な恨み。
大切な家族を傷つけられた、という恨み。
それは、十数年が経とうとも消えるものではない。
フィアの心の傷が未だに癒えていないように。
「やっぱりそう、か……まぁ、仕方ないことだってのはわかってるんだけどね。
フィアが僕を許してくれる日が来るとは思っていないし、
僕も許してほしいなんて思っていない。
そういう、和解内容だしね」
「は?」
和解、という言葉にルカは怪訝そうな顔をする。
フォルはすぐに"あ、いっちゃった"と呟いた。
フィアと直接顔を合わせ、話をしたことはフィアもフォルもルカに明かしていない。
必要以上に互いの仲間に接近しない、というのもフィアからの条件だったからだ。
フォルは小さく息を吐くと、ルカにいった。
「お互いの仲間に手出ししないなら干渉しない。
フィアと交わした、契約内容だ。
まぁ……君の記憶は消させてもらうんだからこんな解説無駄なんだけどね」
話し合いの機会を求めようと思ったけど無駄みたいだから、とフォルはいう。
そしてそのままルカの体を地面に押し倒す。
馬乗りになった体勢のまま、フォルはルカに言った。
「今僕と顔を合わせたことは君の記憶から消える。
でも、僕の問いかけは忘れない方が身のためだよ。
前にも言った……迷いは、むやみな憎しみは剣を鈍らせる。
フィアや……仲間の騎士を守り抜くだけの気概が君にないのだとしたら、
僕は君を殺してでも僕の大切な人を此処から連れ出す」
フォルはそういって凄んだ。
その表情は真剣そのもので、ルカも一瞬息を呑む。
フォルがいう"大切な人"が誰なのか、
何故自分が彼の"ほしいもの"を奪えるポジションなのか、
何一つわからないまま、ルカはフォルの蒼の瞳を見上げた。
その隙に、フォルはルカの額に手を当てて短く呪文を呟いた。
普通、記憶を操作する魔術は何度も効かないものなのだが、
ルカが魔力を持っていないため、幾度でも効果を発揮する。
それがわかった上で、フォルはルカに接触したのだった。
意識を失って倒れたままのルカを見下ろして、フォルは溜め息を吐く。
「和解したい訳じゃない。
僕は僕の居場所を壊されたくないだけだ……
殺す以外の方法でそれが叶うなら、僕はそうしたいけれど……」
この調子じゃ無理そうだな、と呟いてフォルは苦笑を浮かべた。
倒れたままのルカはそのまま放置して、姿を消す。
この生活は、綱渡りだ。
フィアとは和解らしきものをした。
堂々とフォルが悪事を働かない限り、彼……
否、彼女はフォルを攻撃してくることはないだろう。
けれど、彼の仲間はきっと違う。
フォルが"変わった"と理解するより先に、攻撃を仕掛けてくるだろう。
そうしたらフォルも反撃せざるを得なくなる。
そうしたら……今の空間は、幸せな時間は、崩れてしまうだろう。
フォルが愛しいと思っている彼は、"彼方側"の人だ。
「君が認めてくれないのなら、僕は姿を隠している他ないね」
独り言を呟いて、亜麻色の髪の堕天使は姿を消した。
―― Past… ――
(認めてくれ、何ていうつもりはなかったよ。
ただ、君の僕に対する感情が変わっていないか確認しにいっただけ)
(薄れていく意識と記憶のなかに残ったのは、彼奴の声。
過去の罪を水に流すことは出来ないのか?…あぁ、出来るさ、お前に以外なら)