まさかのコスプレ話
(最後までやってない)

よきですか
よきですね
それではどぞっ











お互い、見慣れてるもんだと思ってたし
興味もないもんだと思ってたから。

「……興味、あったってこと……?」

クローゼットの中から出てきた紙袋の中身に、それ以上言葉が出なかった。

***

お風呂上がりの服を探していた時に見つけた「それ」は
隠されることもなく、しかしパッと見た瞬間目に入らないような場所にひっそりと置かれていた。
違和感のある、白い紙袋。
中身が気になって、ずるりと取り出してみる。
入っていたものは──。

「せ、制服……!?」

うちの制服ではない、透明な袋に包まれたセーラー服
と、黒タイツ
と、紺色の靴下。
あーそうねタイツ派と靴下派がいるもんね。
そーいえばわたし達が通っていた中学校は靴下が多かったなあ。椅子のささくれでタイツはすぐ破けちゃうんだよねー。

「……っじゃない!」

心の中でボケたわたしを大声で一蹴する。
わたしの声で驚いたのか分からないけれど、紙袋がかさりと情けなく倒れた。
その紙袋の上にセーラー服が入った袋を叩きつける。

「いやいやいやマジ?そんなこと有り得るの?世の中から聖職者の淫行が減らない理由って、自分の欲望に負けちゃうからってこと?」

独り言を呟きながらじりじりと後ずさる。
ある程度距離を取り、壁に背中が当たったと同時に
隣の部屋から部屋の主が現れた。

「なに一人で騒いでんだァ」

「あ!出たな淫行教師!」

あ?と、部屋の主──実弥ちゃん(ちゃんってついてるけど男)(しかも筋骨隆々)──は、わたしをギロリと睨んでくる。
脅しにビビってたまるか!かわいい生徒はわたしが守る!
バスタオルがずり落ちないように片手で支え、もう片方の手はグーを握って格闘家のように構える。

「テメェ今なんつった?後にも先にも生徒に手ぇ出したことねぇぞ俺は」

ずかずかと距離を詰めてくる実弥ちゃんに怖気づきながらも(瞳孔がバッキバキに開いてる)わたしはセーラー服を指さして「じゃあなにこれ!」と、必死に抵抗する。
覗き込んだ実弥ちゃんの表情が、一気に青ざめていくのが分かった。

「あ!その顔!やべー見つかったみたいな顔!この犯罪者!確信犯!」

実弥ちゃんがハッと息を飲む音。
慌てて弁明を始める。

「ち、ちげーよバカ!これはこないだの忘年会で宇髄に押し付けられたもので……」

「その忘年会にわたし呼ばれてなーい!同じ職場なのに!」

「野郎しかいねぇ忘年会だったんだよ!」

あたふたする実弥ちゃんが面白くてちょっと可愛くて、ついつい意地悪になってしまう。

「実弥ちゃんってそーいう趣味だったんだ……わたし信じてたのに」

「だからちげーっての!」

「本物がここにあるのに?」

「本物なわけねーだろ!あんなのそこら辺で買ったコスプレグッズに決まって……」

「でも、わたし達が通ってた中学校の制服に似てるよね?」

ぐっ、と息が詰まって
目を瞬かせる実弥ちゃん。
さっきの勢いはどこへやら。
確かにわたし達が通ってた中学校の制服はセーラー服だけど、母校の制服に似てるかなんて分からない。
そもそも開けてないし。

「あれあれ、もしかして」

ニヤニヤしながら顔をのぞき込むと、ふいと逸らされた。
勝った!(何と戦ってたんだっけ?)

「興味あるんですか?」

わたしの問いに、小さな声であるわけねェ、なんて言うから。

「じゃあ試してみる?」

「は?」

「今からあれ着るから。興奮したら実弥ちゃんの負けね!我慢出来たら勝ち」

悪ノリの極み、ここにあり。

***

「……ちょっと小さいなぁ」

勢いで着ることになったセーラー服。
母校のそれとは似ても似つかない生地の薄さと粗末な糸の始末。
どうやら実弥ちゃんの言い訳は本当だったらしい(嘘でも困るけど!)

スカート丈はしゃがむと見えてはいけないところまで見えそうなくらい短いし、
上半身は一つの動作で容易に腹チラしそうな長さだ。
まあ、なんとかなるか(なるかな?)
それからペラペラなスカーフを慣れた手つきで結んでいく。
上半身は真面目、下半身はばっちり校則違反の
謎すぎる女子学生の出来上がり。
下は……黒タイツにしようかな。

「できたよー」

向こうの部屋にいる実弥ちゃんに声をかけたけど、返答がない。
顔だけ出して様子を伺うと、実弥ちゃんはそっぽを向いていて
わたしのことなんてまるで興味がなさそうな雰囲気。

「さね、」

ん?待てよ。
口を手のひらで覆い、最後まで名前がこぼれ落ちないようにする。
普通にこのまま接したところでいつもの「わたし」なんだから、興奮するわけない。
そりゃそうだ。
そうするとわたしの負けになる。
だったらセーラー服になにか追加でオプションを付けたら良いのでは!?
もはやセーラー服なんてどうでも良くなってきた。
いつも余裕綽々な実弥ちゃんに一泡吹かせる大チャンス!
乗るしかない、このビッグウェーブに。

わたしはなにも言わず、黙って実弥ちゃんが座ってる隣に座った。
そして一言。

「……不死川君」

座った瞬間急激に短くなったスカートの裾が気になり、ぐいぐいと引っ張って誤魔化す。
こんなに短くなるもんなの?スカートって。

ソファがぎしりと音を立てる。
それから、ふっと大きな手のひらがわたしの視界に入った。
ビックリして実弥ちゃんの方に視線を向けると同じタイミングで肩を掴まれ、ぐいっと引き寄せられた。

「わっ」

喉から情けない声が出る。
抱き寄せられた場所は実弥ちゃんの胸の中で、やたら心臓の音がうるさかった。
あれあれこれって。

「……興奮してる?」

「……してねェ」

「じゃあ顔見せてよ」

「無理」

もぞもぞと腕の拘束から逃れようとするけど上手くいかない。
あれ?心臓の音、うるさくない?
これって実弥ちゃんの?それともわたし?

「ね、不死川君!く、苦しいんだけどっ」

じたばたするけど力が緩むことはなくて、そのじたばたが良くなかったということを、わたしは身をもって実感する。

「っひゃ!?」

不意に隙間から差し込まれる大きな手。
すっとなぞり上げられて、身体が跳ねて。
そのまま優しくソファに押し倒された。

あれ?
あれあれ?

「……実弥ちゃん?」

わたしを見下ろす実弥ちゃんは中学校の時のようなあどけなさはなく
伏し目に色気がある、立派な男の人だった。

「同級生ってシチュエーション、悪くねぇかもなァ」

「えっえっちょっと待って」


こんなはずじゃなかったのに!


苗字にさん付けで囁かれる。
思い出したのは、中学校時代の実弥ちゃん。
あれは修学旅行だっけ?
班行動で行った甘味処で一緒に抹茶ぜんざいを食べたっけ。
詳細はもう思い出せないけど、すごく嬉しかった記憶だけはある。
その頃のわたしに言ってやりたい。
数年後、わたし達は
偶然に繋がって、とんでもない関係になってるんだよ、と。

「なァ、もっかい『不死川君』って呼んで」

「な……っ、興奮ポイント、そこなわけ!?」

そこからあれよあれよという間に事が進んでいったけど
いつもより実弥ちゃんがねちっこくて、途中で音を上げてしまった。