サルファーは斧の刃が己の毛並を掠めていくのを見た。
術が揺らぐ。相手にはサルファーがテロルと入れ替わりで現れたように見えただろう。斧使いの大男が呻く。

「化けて、いたのか……!」

違う。風を操り光の像を生み出し、己にテロルの姿を貼り付けていただけである。
だがサルファーはいちいち否定する気はなかった。既に次の呪文の詠唱に入っていたからである。
気流が渦巻く。
再度降り下ろされる斧をかわし、翼の被膜を拡げ、力強く羽ばたく。
わざわざ光球を生み出したのはケトルを戦いやすくするためと、出来る限り敵の注意を惹き付けるため。
天井近くまで飛翔し、サルファーの術が完成する。
風が旋風と化し、十数人の敵を呑み込んだ。