くらり。眩暈がした。次いで寝台に倒れ込む。
翅が大きく広がる。ひらひらと動く。その度に周囲の情報が無差別に流れ込んで来る。

「あ、あぁ……」

目に見える色の数のなんと多いことか。
耳に聞こえる音のなんと多いことか。
嗅ぎ分けられるにおいの多さ、肌を通して伝わる感触、舌を通じて感じる空気の味のなんと多いことか。
今まで肉体が知覚していたのは世界のほんの一部分に過ぎなかったのだと否応なく理解させられる。

「……ぁ、たまが……」

割れる。
人の身の許容範囲に対し世界は圧倒的過ぎる。

「落ち着くのです、プリンセス」

「お飲み下さい、姫様」

さっと侍女が駆け寄り、ミーナに吸呑を差し出す。
訳も分からずに飲んだ――上手くいかなくて口元からシーツに溢してしまった。それでも喉を抜ける清涼感に困惑が治まる。