断続的に轟音が空気を震わせる。時に大きく、時に小さく。
ミーナが大男に担ぎ上げられて連れて来られたのは遺跡の最奥、祭壇のある広間だった。天井はゆるやかに湾曲するドーム構造。通路と同じようにあちこちに篝火が焚かれている。

「急げ! 計画を早めろとのご命令だ!!」

「エラム様はどうした!?」

「魔法使い連盟の相手をしていらっしゃる! いいから手を動かせ!」

魔法使いの格好をした大人達が慌ただしき動き回っている。鉱石や香炉が運び込まれ、祭壇周囲に幾何学模様が書き込まれる作業が進められていく。
大男はその間を通り抜け、祭壇の近くの篝火の前にミーナを下ろし、傍にあった木箱を差し出した。

「座る、と、いい」

「あ、ありがとうございます……」

素直に従う。
改めてサイードと言う大男を見上げると、彼は地べたに座り込み視線の高さを合わせてきた。

「……腕は」

ぽつりと呟く。

「腕は、痣になって、いないだろうか」

「えっと、……平気みたいです」

あの宙吊り体勢は疲れたが、幸い痕にはなっていない。大袈裟に袖を捲ってサイードに見せれば、無骨な表情に僅かに安堵が生まれた。
ふとミーナに生じる理解――この人は自分の力で誰かを傷付けることが恐いということ。きっと実際に誰かを傷付けたことがあるということ。