部屋の造りは簡素なものだった。寝台と棚、窓がひとつずつの狭い部屋である。複数人向けの部屋はまた別にあるのだろう。
寝台には布団が無い。カナン大帝国の宿屋はよほど高級でない限り、宿泊客が寝具を持ち込む形式である。
「あ、お客様。少しお待ちになって」
女将はそう言うと、台所の方へ向かった。
「さっき、お料理がもう無いって言ったでしょう? でもお夜食くらいならありましたわ」
そう差し出されたのは饅頭だった。麦の粉をこねて肉を包み、蒸したものである。
少年は礼を言って受け取ったが、別段腹も減っていなかったので翌朝に食べることにした。