石川湊


 人類は、大地を見たことがない。
 天地を貫く巨大な柱・ターミナルを中心に、彼らは街を造り国を建てた。旧世代の遺構であるターミナルを繋ぎ、空を横断する無数の鋼線。そこにぶら下がるゴンドラに乗り、流浪者(ドリフター)たちは街を行き来して生活する。見渡す限り、一面の蒼。
「警告。危ない、空に墜ちますよ」
 そう、これは――俺の知らない世界。
 青空に浮かぶ雲海の中、記憶喪失で倒れていた青年・クウガを拾ったのは、天真爛漫な流浪者スズと、彼女に尽くす機械人形(オートマタ)のエア。少女二人と旅をする中でクウガが知る、己と世界の真実とは――。

(あらすじは電撃文庫のサイトから引用しました)
(問題あれば削除します)


久々にあらすじだけで読みたいと思わせてくれる作品に出会いました。
この手のSF的な世界観の作品は最近じゃちょっと珍しいかもーと思ったり。

人々は空に繋ぎ止められて生きていました。
物資は少なく、ターミナルで生産する以外はドリフターとの取引でまかなっています。
ゴンドラもターミナルも電力が無ければ動かないのに、ターミナルの上層以下はブラックボックスと化し、どうやって電力が作り出されているかの知識は失われて久しいというのです。
雲海には遺跡があって、雲の中には魚が泳いでいたり、羽の生えた豚に似た動物が生息していますが、それ以外にも凶暴な鳥や嵐を纏うドラゴンがいてとても危険な世界です。
危険ですが、空の上に逃げ場はありませんでした。
なんて閉塞的なんでしょう。あと数年もしたら人類滅びそうな気配しかしないのが素晴らしいです。

タイトルのセンスも脱帽です。よりによって、なんて単語をチョイスしたのでしょう。
読み終わってから表紙を見るとぞくりとする、いい読み味の作品でした。
遺跡、冒険、某天空の城的なファンタジーと思わせておいてこれです。いやー重い。そこがいいと思いましたが。


作者はこれがデビュー作ということで、あとがきでも述べているように文章は拙い部分もあり、終盤の展開も駆け足です。個人的にはストーリーもキャラクターもあともう少し、こう、なにかが欲しかったです。物足りない…。
ですが、何が書きたかったのかは伝わってきました。
世界観の構築と中盤の展開が好きです。世界がどこまでも広そうなので、続きがあるなら読んでみたいです。微妙にホラー風味でも面白そうです。

そうそう、主人公のクウガが年齢的に落ち着きのある青年だから安心して読めたというのは大きいです。これが少年だったら全然違う話になっていたと思います。
でも怪我で倒れていた状況の説明が無かったので「そんな話でしたっけ?」思わずページを戻ることもしばしば。

どうあがいても絶望するしかないこんな世界。でも生きていく。
これはそんな、絶望の中で生きていく人達のお話でした。


追記でネタバレ内容に触れています。
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