「いやー」

ケトルは頭を掻いた。短く刈った蜂蜜色の髪がくしゃくしゃになる。
水平線色の眼をした、あどけなさの残る顔立ちの十四歳の少年。軽鎧に包まれた体はまだまだ発育途上のもので、独特の柔らかさがあった。
ケトルは籠手に覆われた手をリャオに差し伸べた。

「逃げられちまったなぁ。でもいいとこまで行ったんだ。次は捕まえようぜ!!」

リャオはその手をはたき落とした。

「ケトルなんもしてないヨ! 何が『逃げる場所は無い!!』だヨー!! ケトルがあそこで慢心しなけりゃ捕獲できてたかもしれないのにヨ!!」

「うっ」

油断したのは事実のため、反論することが出来ない。

「オレ並みに動けとか言わないヨー、でもせめてド素人のくせに慢心するのはヤメロ」

やや吊り上がり気味の銅色の眼差しがケトルを射抜く。
裾を払い立ち上がったリャオの身長は、ケトルとさほど変わらない。皮に似た質感の動きやすそうな服を身に付け、腰には二本の剣を帯びている。袖や裾から伸びる手足に無駄な肉は無い。たまご色の肌は土や埃などで汚れ、擦り剥けて血が滲んでいる箇所もあった。
東方系人種のためか実年齢よりも幼く見えるが、これでもリャオは十九歳であり、ケトルよりも場数を踏んだ先輩冒険者でもある。当然、ついこの間まで普通の村人として暮らしていたケトルとはくぐってきた修羅場の数が違うのだろうが、それでも。

「顔面に肉球スタンプされてる奴に凄まれてもなぁ……」

「ウルサイヨー!!」

リャオは頭に巻いたバンダナをほどき、勢いよく顔を拭った。