ろくごまるに氏の著作を再読しています。『封仙』シリーズの一巻を読了しました。
読み方は「ふうせんにゃんにゃんついほうろく」です。


仙人の造りし神秘の道具、宝貝。新米仙人の和穂は不注意により、師匠が封じ込めていた失敗作の宝貝七百二十六個を人間界にばらまいてしまいます。責任を感じた和穂は自ら志願し、宝貝回収のために旅に出ます。唯一逃げ出さなかった刀の宝貝「殷雷刀」を護衛にして。
術を封じられた元仙人の娘と、情に脆いという武器として致命的な欠陥を抱えた刀の青年が、欠陥宝貝を求めて旅する冒険活劇です。

見所は、圧倒的不利な状況を、力押しではなく閃きと工夫で乗り越えるところです。特に、何があっても決して諦めない和穂の姿には眩しさを感じます。
また、元々主人公達は強く無いのですが、巻が進むごとに強くなるどころか弱体化していきます。新しい宝貝を入手しても、危険過ぎて使えないか壊れてしまいます。つまり圧倒的不利は変わらない、インフレならぬ超絶デフレバトルです。


キャラクターについて。

和穂は性格の造型に嫌味が無く、芯の強さに説得力がある娘です。
一巻の頃の和穂はまだお転婆な感じですねー。これが巻を重ねるごとに徐々におっとりな感じにシフトしていくのは、成長だと解釈しています。泰然自若と言いますか。

お供の殷雷は、登場して和穂に厳しく現実を突き付けたと思った数ページ後に人情話にほだされて泣くわ、敵に致命傷を負わせる寸前に動揺して刃を止めるわ、とその欠陥をいかんなく発揮するわけですが。本人も自身の欠陥を自覚しているから、強がって悪ぶった態度を取ってしまうあたりに可愛げを感じます。
流石に武器ですから自分の実力と戦況把握能力は頼もしいです。また、なんだかんだ言っても優しく(それが欠陥に由来するものだとしても)、不意に見せる気遣いによく和穂はときめかなかったなぁ、とか(そんな悠長な状況ではないのですが)。現代風に言うとツンデレですね。

他のキャラクターも、仙人達はその実力と描写に見合うだけの「格」を、敵はその脅威を、しっかりと見せつけてくれました。今回の再読で、ちょい役の乾物屋の婆さんまでしっかりキャラが立っているのに気付いて舌を巻く思いです。人間の干物まで置いてやがるぜ。


さて、ろくご節と呼ばれる文章のテンポの良さは今作も健在。
特に戦場に散らばる雑兵の死体の描写は素晴らしいです。簡潔であり、直接的な表現を使わずにエグさを出す技。文章ならではの技術。核天の痛みがこちらにも伝わってくるかのようで、食欲減退しました。正直、死体描写の部分だけでも読んで欲しいですね。見事ですから。

あとは、終盤のページを捲る度に二転三転する戦況も『封仙』の醍醐味ですね。
いやぁ、まさか中華風異世界ファンタジーかと思いきや、ラストであんなことになるなんてねぇ、はははは。みたいな暢気な会話をしたいです。ネタバレになるから詳しく言えませんが、読んで!


ところで、一部の宝貝は欠陥が書かれていないまま終わったので、そこは考察するしかないんですかね。ちなみにインターネット上に宝貝目録があったので気になる人はレッツ検索。


長くなりましたが、今流行りの刀の擬人化ですぜ、擬人化。二十年前の作品にしては先見の明があるとは思いませんか?


追記は自分なりの考察、雑感です。軽くネタバレ気味。
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