梶井基次郎『檸檬』を読了しました。

短編集です。
文体は耽美的。
文章による心象風景のスケッチという印象を受けました。

以下、いくつかの作品の感想を羅列していこうかと。ネタバレは無いです。

「檸檬」
表題作。どうしようもない、停滞した、ろくでもない、鬱屈した日常を穿つテロリズムの話。この上なく爽やかな爆発四散を夢見る男の陶酔が肝だと思いました。
精彩を欠く風景の中で、檸檬の鮮やかさ、みずみずしさが一際目を引きます。作中の画集の言葉に引っ張られ、まるで絵画を見るかのように脳裏に光景が浮かび上がってきました。胸を高鳴らせ、うっとりとしながらそれを行なった男の姿も。

「櫻の木の下」
お馴染み「桜の木の下には屍体が埋まっている」のフレーズの元ネタはこの作品です。ワンフレーズだけ一人歩きしていますが、長い文章の中の一部を抜粋しているだけですし、だからおそらく原作のニュアンスをそのまま使っているケースは少ないのではないかと。
むしろそのフレーズの後に続く、ぬめりを帯びた幻想こそがこの作品の本筋だと思いました。

「ある崖上の感情」
話し手の青年と聞き手の青年が崖の上下で交錯する話。
話し手の青年が(酔っているとはいえ)エロに躊躇無い変態だったため、聞き手の青年に感情移入して一緒にドン引きしながら読み進めました。高低差の対比、生死の対比、美醜の対比、相変わらずの二極化が見られます。もっと何かあると思いましたが、意外とあっさり終わった印象です。