久々に。


「マイト、唄います!」

「いらっしゃいませー! 冒険者の酒場へようこそ!!」

「まぁ、実際は一階が酒場で二階が宿屋と化しちゃってるけどね〜? あはは」

「依頼人の方ですか? はい、仕事の依頼に関するご相談は店長に代わりましてわたくしが承ります」

「はいお待たせー! エールと鳥の香草焼きでーす」

「この町は冒険者の町。ほら、あそこの遺跡目当てに冒険者が集まって、そうやって出来た町なんだ。だから住人は冒険者や元冒険者ばっかりだよ。僕は違うけど。……僕は、最初からいたからね」

「ボスー、やっぱり人雇おーよー。せめてあと一人ホール担当欲しいってー」

「その貼り紙に興味あるの? 今あそこのテーブルに依頼人さんが居るから、話だけでも訊いてみたら?」

「おーいっ、みんな聞いてー! 緊急募集! 漁師さん達からの海蛇(シー・サーペント)退治の依頼、成功報酬最低200リニュから応相談! やりたい人いるー?」

「あはー。僕これでも人間じゃないから平気ー。……え、『見えない』? うそぉ!? なんで!? マーカー消してるから!?」

「こうして大戦の終結とともに、人と魔物が殺し合う時代から人同士が殺し合う時代になりました。めでたしめでたし」

「んーんー……。やっぱりこっちのメロディーの方がいいかなー…。……ってうわ!? 恥ずかしいところ見られちゃったなぁ……あはは。んー…今はね、曲を考えているんだ」

「うーん……。残念だけど、その依頼は君達にはまだ早いと思うなぁ。こっちのゴブリン退治はどう?」

「え? 僕の能力? よっくぞ訊いてくれました! 僕が楽器を奏でるとですね、−−このように場が混乱をきたしまなんで殴るの!?」

「君達さぁ、いい加減ツケ払おうよー。うちのボス、かなーり苛立ってて怖いんだってば」

「正直ラツィ君の名前は発音しづらごめんなさい」

「『とーさん』とは全然タイプが違うけど、ボスも父親……いや、『親父』って感じかなぁ。年齢だけなら僕の方が年上なんだけど、貫禄が違うからねぇ」

「痛ったぁー、やっちゃったー…。やだな、痛いのは嫌いだ。……あ、大丈夫大丈夫。僕の体ってすぐに塞がるから」

「僕の名前は鉱石から取られたんだ。ずーっと元を辿れば『人間』とか『土』って意味らしいよ。ちなみに苗字は、何十年か前に戸籍法が制定された時に自分でつけてみたんだ」

「最近さぁ、陸路を行けば盗賊や山賊、海路を行けば海賊が出るんだって。怖いよねー」

「じゃあ、リクエストにお応えして一曲弾くね。砂漠を渡る風の唄を」

「その、酒場で愚痴っているおっさん並の被害妄想が何だよ。自分は全く悪くなくて、悪いのはこの世界だーとか、そんなのどうでもいい話じゃないか。僕、眠いから帰るよ? −−え、『助けて』? なんで。別に君の生死も人生にも興味なんか無いよ」

「みんなーお酒美味しいー? いいなー。いやさぁ、僕は強いんじゃなくて、すぐに分解しちゃうらしくて酔えないんだー…。だから酔えるみんな達が羨ましいな。ていうか知人から『貴方、其の間抜け面でアルコールには強いとか何ですか不愉快です寄らないで下さい』とか言われたんだけどこれ僕が悪いの!? 完っ全に八つ当たりだよね!?」

「君は悪くないよ。誰も悪くないよ。だからどうか泣かないで。僕がいるよ。僕も、いるよ。ここに、いるから……」

「僕はポニーテールの似合うお姉さんが大好きです!」


 外見及び実年齢の割には間延びした、ユルい口調。しかし仕事中(依頼人の応対)は頑張って真面目な口調を心掛けている。
 自分を隠すということをせず、自身の心情を自然体で口にする。例えそれがふざけた発言に聞こえても、言っている当人は至って真面目。そこに邪気や打算は存在しないという意味ではフランの対極。
 自分をさらけ出すことに抵抗が無い。これは数年間ずっと人間と会話しないこともザラだった過去の経験から、今のうちに自分というものを可能な限り出していこうとしているため。だから、問われれば答えるし、訊かれなくても答えるし、言わなくていいことも言うし、そして殴られる。だけど本格的に場を凍りつかせるような発言はしない。
 ちなみにこの傾向は彼の作る唄についても同じで、伝承や民話に曲をつけた唄の他にも、彼自身の心情や過去を織り交ぜた物語を唄うことが多い。