君色、空の唄のもしもな獄寺君の話



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―…何か、が足りない。


漠然としたその違和感に、ふと歩みを止めて後ろを振り返った。
夜も更けていることから、チカチカと切れかけの街灯が光るだけで人の姿はほとんどなく、ポケットにしまいこんだ煙草を一本咥える。
吐き出した煙と共に頭に甦ったのは、今日もまたチンピラは要らないとファミリーに入れてもらえなかったことで、思わず舌打ちがでた。


「血がなんだっつうんだ…」


チンピラと言われるのは慣れた。
だが、この身に流れる母の血筋を馬鹿にされるのは我慢ならない。
東洋の血がなんだ。ハーフだからなんだ。子供だからなんだ。
―…俺はただ、


『もう!ご飯ちゃんと食べないとダメだって。あっ、じゃあさ…今日おれん家で食べてきなよ?』


ずきり、と頭が鈍く痛む。


誰か、の声がする。


『やり過ぎだよ!おれのためにそこまでしなくても…』

『も〜、獄寺君ってば』

『っ!?逃げてー!!早く!』


ボーイソプラノの声が、呆れたように…でも優しく響く。
知らない声なのに、知らないはずなのに、何故か心にスッと沁みて。


『獄寺君に会えて良かった』


煙草の灰が地面に落ちる。


「じゅ―…いめ」


ハッとして、口元に手をあてる。
ぽろりと無意識に零れ落ちた言葉は己にも聞き取れず、何と口にしたのかもよく覚えてもいない。


「疲れてるのか…?」


誰もかに否定され過ぎて、願望から夢でも見ていたのだろうか。
誰かに必要とされ大事にされ、俺もその人の為に生きたいと隣にたつ姿なんて。


「はぁ…」


切れかけの街灯がぶつりと消える。
止めていた足も自然とまた歩み始め、煙草の煙で身体の中を満たしていく。


誰かが俺の隣にいたような気がしたが、気のせいだろう、と。


何かが足りない?
そんなの前からじゃないか。代わり映えのないつまらない毎日なんて。
だからそう、足りないのは気のせいだ。



何かが、
(きっと幻想だ。そんなわけないはずだ)



誰もいなくなったソコに、拾われる事もない誰かの声が落ちる。
ごめんね。君達には覚えられてたら困るんだ。
またアイツ等があの子を壊すからー…と。



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もしも、な話。
綱吉は記憶を持ったままトリップしたけど、残された彼等は…。
獄寺君でやってみましたが、綱吉の存在たけが彼等の世界からスッパリ消えていたら、という話です。
殺られているかもしれないけど、でも綱吉をトリップさせた何かによって、彼等も生きていたとしたら…
記憶があったら、きっと綱吉を迎えにきそうな気がして。そしたらザンザスの耳にもそれがはいるだろうし、そんでまた悲劇が繰り返されると思うんです。
だから彼等には記憶から消されてて、でも…やっぱり不意に何かを感じるんでしょうね。
記憶がないのはいいけど、生活は味気ないもので生きててもつまらないとか思ってそうです。