前に言っていた人妻の遊星に焦がれるジャックで少しだけ書いてみたので載せてみます。
遊星は過去ジャックといたときは一人称は「俺」でした。
けど、シティでジャックが遊星と再会したときは彼女は「私」に変わっていたという補足です。
よければつづきからどうぞ
―一人称―
ジャックと再会した遊星は一人称を昔とは違う「私」と使っていた。それだけの事でなんだか遊星が自分の知っていた人ではなくなった気がして違和感を感じる。過去の楽しかった記憶がある分それはより鮮明に浮き彫りになり、思い出を二人で話す度にそれはさらにはっきりとしてくる。遊星は悪くない。ただ、自分とは違う時間の何かが遊星を変えたのだ。それが夫だと容易に理解できるところが気に入らない。これは幼い子供の嫉妬のようでジャックは素直に受け入れられなかった。昔に別れた頃から片思いの恋にも届かない未熟な感情のはずだった。友と勘違いしてしまいような曖昧な思いだったはずなのに。今ではその思いははっきりと言葉にできてしまうほどだ。ジャックは遊星に恋をしていた。いや、今でも。二人は確かに違う時間を同じ量で生きたはずなのに引き離された距離の苦さにジャックは彼女が煎れたコーヒーで飲み干した。苦いはずなのに嫌いじゃない。コーヒーもこの感情も確かに遊星への思いでジャックは離したくなかった。人妻の彼女は今の不安定な彼にはあまりに困惑的で魅惑的だ。子供の火遊びとは違う背徳さにジャックはどこかで浸っていたかった。それを平然と振舞い、隠さなくてはいけないのがジャックには気が狂いそうなほど苦しかった。
「懐かしいな。あの頃はよくおまえと一緒に色んな場所に行った。覚えているか?」
「ああ、町外れのジャンク山に連れて行かれた時は心底驚いたぞ?」
「…そうだったな。だが、ジャックは私よりも気に入ってよく行っていたじゃないか」
「昔はな。だが、シティに来てからは学校以外とくに何処にも行かなくなった。せいぜい喫茶店かそこら辺だ。遊星が居なくなってからはな…」
「私が、」
まただ、何故こんなにもいらいらするのだ…
「遊星、別に“俺”でも構わない」
少し無理に割って入ったジャックの発言に遊星は口にカップを運ぼうとした手を止め、彼を見た。だが、彼女はまたコーヒーをひとくち飲んでほっと息をつくだけ。そして穏やかな表情で口を開く。
「…昔に戻ったみたいで懐かしいな。おまえの前だけはそうするよ」
望んだ答えなのに癪に触る。どうにか自分に向かせたい我が儘をふるりとかわす彼女はジャックにもう一杯コーヒーを勧めてきた。完全にこちらの思いを知っていて逃げているかのように。だが、昔の彼女に僅かながらも戻ったのだ。それだけでも十分な筈ではないかと、ジャックは自身を納得させることで感じていた苦みを消した。
Fin
2010-12-23 10:03