「特殊請負人と接触したい!?鼎、それはかなり難しいからやめとけ。調べたらうちの組織の裏の人間らしいじゃないか」
宇崎が鼎を制止しようとする。鼎はあれから憐鶴(れんかく)が気になっていた。彼女は任務になると冷酷になるみたいだが…。

顔を隠している共通点がある者同士がゆえに、気になってはいる。
鼎が表の司令補佐なら憐鶴は裏の執行人。憐鶴の存在はゼノクでもほとんど知られていない。


「その特殊請負人について調べてみたんだが、情報はほとんど出てこなかった。
ただ…その特殊請負人もとい、闇の執行人が運営しているサイトは見つかった。彼女、管理人もしているみたいだな〜」

宇崎はそのサイトを見せる。鼎は戦慄した。


…闇サイト!?ターゲットは怪人限定。よく見るとゼノク公認!?


「鼎、もう1度言うが深入りしすぎるなよ。お前…その『レンカク』と接触したんだろ。2回目はかなり難しいだろうねぇ」


そこにいちかが入ってきた。
「室長〜、きりゅさん〜。その『特殊請負人』らしき人が映った動画がSNSで拡散されてるよ!ほら、『怪人の処刑人』って。
顔が包帯で見えないから推理合戦してる」

鼎はそのSNSにアップされている動画を見た。
「なんだこの動画…。わざと撮らせたようにしか見えない…」
コメント欄にはこの人が何者かの推理合戦がデッドヒート。そこにはダークヒーローと讃えるコメントもちらほら。



ゼノク・憐鶴の部屋。憐鶴は姫島に包帯を替えて貰っている。


「あんな動画、なぜ撮らせたんですか…?」
姫島は慣れた手つきで憐鶴の顔や首に包帯を巻いている。

「ダークヒーローの虚像を作り出すことを考えてたみたいですね、長官は」
「私は傀儡?わからなくなってきました」


憐鶴も鼎があれから気になっていた。また接触出来たらいいのだが、任務の特性上本部に行くことはない。


「姫島さん」
姫島は憐鶴に巻いた包帯を仕上げていた。綺麗なシルエットに見えるようにしている。
「なんでしょうか」
「紀柳院司令補佐とはもう…会えませんよね…」

「ほぼ不可能かもしれません。私達とは住む世界が違いすぎますから。
司令補佐は『オモテ』の人間、私達は同じ組織とはいえ『ウラ』の人間なんですよ…。あ、包帯完成しました。鏡見て下さい」

憐鶴は鏡で確かめる。相変わらず綺麗に仕上げてくれる。憐鶴は顔全体を包帯で覆っているために、シルエットが大事らしくそこを気にしているようだ。


「今度の任務、異色ですけどやるんですか…?屋敷の新人メイドとして潜入してターゲットの怪人撃破って、難しくないですか」
「難しいでしょうね。屋敷の旦那さんや奥さんは私を請負人だとわかってて、潜入を承諾しましたから」
「その出で立ちにメイド服ってホラーすぎません?」

「よく言われますよ。和装もかなり怖がられます。
私服が1番なんともないですが」


顔から首にかけて包帯姿というビジュアルゆえの悩みらしいが、憐鶴には人前では素顔になれない事情があるようだ。



数日後。宇崎は鼎にあることを知らせに来た。

「鼎、その憐鶴との接触は無理だったが協力者2人との接触はあっさりOK出たぞ」
「協力者?」
「やっぱりうちの隊員だった。苗代と赤羽だ。そいつらは既に向かってるから直に着くよ」


小一時間後。なんかラフな格好の男性とチャラい格好の男性が司令室に到着。

この2人が憐鶴の協力者…?


「お前達、なんで私服なんだよ」
宇崎が突っ込む。
「隊員証はちゃんと持ってまーす。任務上、俺達は私服が多いんですよ。普段から一般市民を装ってるんで」
赤羽は隊員証を見せた。確かに隊員だ。

「あ、あなたが紀柳院司令補佐ですか!?」
苗代、大袈裟。
「そうだが。本題に入るが『泉憐鶴』について何か知らないか?」


「憐鶴さんかー。俺が知ってるのは普段は穏やかだけど、任務になるとすげー冷酷になるの」
「憐鶴さんの素顔、未だに見たことないんだよな〜。
あの人めちゃくちゃ警戒心強いから、世話役の姫島さんくらいしか素顔を見せないんだよ」

「他は?」


「かなり闇深いというか、闇すっごい抱えてる感じがする」

闇か…。



憐鶴と姫島は任務のため、ある屋敷を訪れていた。奥さんが出迎える。

「お待ちしてました。どうぞ御上がりください」
2人は屋敷に通された。

「この屋敷に巣食う怪人を倒してはくれないか。金はいくらでも出す」
旦那さんが憐鶴にすがりついてきた。

「承知しました。では…依頼通り、お手伝いとして3日間屋敷にいればいいんですね?」
奥さんが憐鶴にお手伝い用のメイド服を持ってきた。コスプレにあるようなスカートが短いものではなく、スカートが長いもの。


「3日間屋敷にいますが、それでも怪人が出なかった場合は延長可能なんですね?」
「最長1週間なら承諾しよう。それまでに倒してくれ!」

「あの…私はどうしましょうか?」
姫島が旦那さんに聞いてきた。姫島に関しては依頼人は何も提示していない。

「憐鶴さんの世話役なら、そのままいて下さい。彼女の出で立ちでわかりましたから。
あの包帯…1人では簡単には外せないようになっていますよね…。何かあるんでしょうか」


憐鶴は服を受け取ると着替えに行ったようだ。その間、屋敷の夫婦と姫島は話してる。

「憐鶴さん、人前ではあんな感じなんですか?顔全体包帯だからものすごく見づらそう…」
「10年前からあの姿ですよ。彼女は慣れていますから、怖く見えるのは最初だけかもしれません」

「…なら、いいんだけど…」


憐鶴は屋敷に潜む怪人撃破のため、メイドとして潜入任務を決行。

初めは姫島と一緒に仕事をしていたが、案外あっさりと慣れてしまう。


屋敷の夫婦の会話。

「憐鶴さん、慣れるの早いな」
「見た目だけで決めてはいけないってことね。彼女、食事は大変そうだけど。食事の時も姫島さんが何かしているみたいね」

「世話役が必要って、素顔はどうなっているんだろうな〜。
あの包帯、かなりきつめに巻かれているというか…。あんだけはっきり顔のシルエットが出るほど仕上げている、姫島さんもすごいけどな」

「でも憐鶴さん、不自然よね。話してる時、口元がモゴモゴしてなかったように見えたのよ…気のせいかしら」
「まさかそんなわけ…ないだろ」



3日後。屋敷に潜む怪人は出ず。延長に。
本部ではその屋敷に怪人が潜伏している情報が。


「場所…ピンポイントすぎないか?なぜに屋敷?しかも財閥の邸宅じゃないか…」

宇崎、反応に困る。鼎も気になってはいたが、戦えないため行けるはずもなく…。


「ちょっと屋敷にてーさつ行ってくる」
「あ、いちか!勝手に行くなっ!」



屋敷・門の外。いちかは死角を探り、内部の様子を見ている。
そこには顔から首にかけて包帯姿の女の姿が。


「室長、ヤバいっす。憐鶴らしき包帯姿の女がいました」
「それ、どーゆーこと!?」

「なんで憐鶴が屋敷の中にいるんだ…?請負人案件なのか…?」
鼎は呟いた。





オモテとウラ (下)へ続く。