音だけであいつが帰ってきたのが解った。
靴音、鍵を出すタイミング、歩数、その他いろいろな判断材料で、確信した。
高耶は走って玄関前まで行き、座って待った。
かちゃりと鍵が回り、ドアが開く。
「ただいま。」
そう言うと直江が入ってきた。
直江はいい子に玄関で待っていた高耶を見つけると、とろけそうな微笑を浮かべ、高耶の頭を撫でた。
高耶の喉がぐるぐる鳴る。
「お帰り、直江。今日もいい子にしてたぞ。ちゃんとご飯も食べたし、トイレもできたぞ。えらいだろ。どうだすごいだろ。」
高耶は直江が歩く足の間を離れないように八の字で歩いた。
直江は踏み潰してしまわないように、歩く。
「スーツ脱いできますから、少し待ってて。」
直江は高耶を軽々と抱き上げるとソファーにのせてリビングを出て行く。
「解った。直江、早く早く。」
高耶はソファーのギリギリまで直江についていき、そこで待った。
戻ってきた直江の胸に、高耶は飛び込んだ。
「遅いぞ。早く俺を撫でろ。ずっと待ってたんだからな。」
直江は甘える高耶の要望を感じとるように、頭を撫でた。
優しく撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
「高耶さん、ご飯にしましょう。お刺身買ってきたので、少しだけ分けてあげますね。」
直江は高耶を抱いたまま、玄関に戻り、買い物袋を取ってきて台所に向かう。
コンロの無い作業台に高耶を下ろすと、袋の中から食べ物を出して、冷蔵庫にしまう。
今日の夕食は刺身(マグロの赤身、ハマチ、サーモン、甘エビ)の他にイカと里芋の煮物、春雨サラダが出てきた。それとビールが一缶。
パックのまま食卓に並べ、高耶のご飯皿もテーブルにのせた。
カリカリの中々美味しいやつをいつもの2/3位よそってくれた。
高耶は刺身のパックが開くのをうずうずしながら、待った。
「高耶さん、だめですよ。あなたの分は私がこのお皿に分けますから、取ったらだめですよ。」
直江は高耶に注意したが、今の高耶には聞く耳がない。
刺身を見ると見境無くなってしまう。
直江も解っているのだが、刺身を食べる高耶が幸せそうにするので、気付くと買ってしまう。
案の定、パックが開いた瞬間を狙って高耶は刺身によってきた。
「こら、高耶さん。」
直江が手を振り上げると、高耶は身を縮込ませた。
「だって、俺の刺身。」
「今あげますから、待ちなさい。」
そういうと直江はご飯皿に分けてあげた。
高耶は皿に顔を突っ込むと、大事に刺身を食べた。
赤いのも好きだけど白いのが一番好き。プリプリの甘いのも好き。美味い。美味いよー。
サイコーだ。ちゃんとお留守番出来て、ご飯美味しくて、直江がいて、俺すごい。俺サイコー。
あうあう鳴きながら高耶は食べた。好きなもの食べるときは鳴いてしまうのが癖だった。
直江はその姿を眺めながら、ビールを流し込む。
最初は動物を飼えるか心配だったが、高耶との相性は中々良かったようだ。
生活に張りが出た。
高耶はわがままはしないし、本当に駄目なことはしなかった。
直江の負担に成るようなことはわかるのかしなかった。
ふと高耶は食べるのを止めると、直江を見た。直江とお皿を交互に見ると、ため息を少し吐いて、鼻でお皿を直江の方に押した。
ハマチが一枚だけ残っている。
「どうしたの?お腹いっぱいですか?」
直江は不思議そうに聞いた。
「直江、白いの美味しいよ。お前にやる。」
断腸の思いで、差し出した。
俺の好きな白い刺身。でも、直江が一番好き。
だから、直江にあげる。美味しいから食べると良い。
直江は高耶のお皿の最後の一枚を見た。高耶の好きな白身の刺身。どう言うわけでくれるのか解らないが、高耶はとっても惜しそうだ。
それなのに直江にあげるらしい。
「ありがとう、高耶さん。」
そういうと、直江は高耶が残しておいたハマチを食べた。
高耶は直江の口に入るまで惜しそうに見た。でも、直江が美味しそうに食べているのを見られたので満足だ。満足なんだ。
明らかに残念そうにする高耶をみて、直江は苦笑した。
「高耶さん、はい。」
直江はそう言うと、高耶のお皿にハマチを入れた。
「俺の白いのー。」
でも、なんでだ?俺のは直江が食べたのに。
「こっちのハマチも美味しいですよ。」
そう言うと直江はお皿を高耶の前に戻した。
直江のパックに残った最後の一枚を高耶にあげる。
私も、あなたが喜ぶ顔が好きだから。
「いいのか?」
お皿を見て、直江を見た。
笑顔で頷く直江。
高耶は嬉しいそうに、ハマチを食べた。
「美味いー。直江の白いの美味い。」
やはりあうあう、鳴きながら高耶は食べた。
食べ終わると直江の膝に降りてお腹に頭をこすりつけた。
「直江ー、美味しかったよ。白いの美味しかったよ。すごいな。直江もすごいな。」
甘えたように鳴くと、直江は優しく撫でる。
「好きだー。直江、好きだよー。」
ゴロゴロと喉が鳴る。
直江が部屋に戻ると、高耶はソファーで眠っていた。
随分と疲れていたようだ。
部屋に入る時に話しかけてしまったのに、起きなかった。
直江は冷蔵庫に刺身をしまい、アラで潮汁を作る。
下拵えをして、鍋にアラを入れ、少しだけ鍋の前から離れる。
火は弱火にしておいた。
高耶はまだ眠っている。
眠っていると彼は思ったよりも幼い顔をしている。
寝息も穏やかで、幸せそうだ。
あまりに幸せそうな眠りだから、直江にまで眠りがうつってしまいそうだ。
そのとき、唇が動いた。
「直江。」
微かな声で呼ばれて、直江は唇に耳を近づけた。
「にゃーにゃーにゃーにゃ。」
猫語?!
「にゃ、にゃーにゃ、にゃー、にゃー。」
何の夢見ているんですか、高耶さん。
直江は高耶のあまりの可愛さに立ち上がれなくなった。
そんなこととは知らずに、高耶は穏やかな眠りに沈んでいた。
猫高耶可愛い。
すいません。うっかり読んだ方には申し訳ない。
っても、うっかりは速攻帰るから、ここまで付き合ってくれたあなたは、もしかして、私ですか。
誰得?俺得。
夢の中の高耶は自分を人間だと思っていて、直江は高耶を猫だと思っているので、あたしの脳内では高耶に猫耳はつけてません。
着けない方が可愛い。
直江視点では高耶は猫。シマシマの灰色。アメショみたいな。
高耶視点では17歳位かな。覇者辺りの高耶で。
あっでも、もっと子どもでもいいかな。11歳位とか。
テーブルに高耶は正座で食べてたら可愛いな。