2011.10.19 19:16 [Wed]
ラビss

「遅いよ」
「これでも急いで来たんさ」
「まだ嫌ってくらい残ってるから、よろしくね」
「りょーかいっ…!」


ラビが現われたことで必死に保ってきた均衡がようやくこちらの有利に傾き始める。それがわかって一息吐くもすぐに気を引き締めまだこれからと前を向く。弧を描く屶を振るってまた一体悪魔を葬った。ごめんね、わたしは優しいあの子のように哀れむことはできないけど、祈るよ。どうか次は、その魂が悲しい負の鎖に絡めとられてしまうことのないように。





「…ラビ」
「んー?」
「何寝てるの」
「そこはさ、大丈夫の一言くらいあってもいいんじゃね?」
「ラビはほんとに大丈夫じゃないときはそんなことしない」
「…よく見てるさね」
「ブックマン相棒は伊達じゃないから」
「降参。なんともないさ。ただ、…少し疲れた」
「…そうだね」


ラビの隣に寝転んで、半分焼け野原と化してしまった元は市街地であった場所に目をやる。もう、この街は終わりだろう。建物のほとんどはいまの戦闘で壊れてしまったし、何より、――人がいない。住人のほとんどは悪魔と化し、いま私たちの手によって破壊された。もう少し早くにここを訪れていたらとも思うけれど、被害がこの先広がらずに済んだだけでもよかったのかもしれない。ここに来たのはただの偶然、任務帰りにたまたま立ち寄っただけだったのだから。エクソシストの血が引かれたのか、それとも滅びゆくものにとらわれるブックマンの悲しい性か。


「じじいに報告しなきゃだよなー」
「言い方は悪いけど、これも貴重な記録だからね」
「…そうさね」


なぜイノセンスもないこの街にアクマが現われたのか、エクソシストの立場から見てもたぶん今回の件は興味深いはず。ブックマンだけじゃなく室長にも報告しなきゃだろう。


自分で選んだ道だけどたまに悲しく、――違うな。虚しくもなる。わたしたちの存在意義などあるんだろうか。密かに語り継がれる裏歴史なんて本当に必要?わたしたちの記録に意味はある?


「さって、そろそろ帰るか」
「すでに1日ずれ込んでるしね。ブックマンのお小言も嫌だし、行こう」
「ん」


黙って差し出された右手に自分の左手を重ねる。隣のこの優しい彼のために、わたしはブックマン相棒であることをやめない。心を移すことなく傍観者であれ。そんなつらさを一人背負わせないために。ラビと一緒にいようと決めたから。いつか、――いらないと言われるその日が来るまでは。

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