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証を刻む[2]
07/12/15 21:48 Sat

>>[2]



「年末でどこの隊も忙しいんだ…んな暇ねぇよ。特に零番隊なんか……」

「まぁ、それもそうですよねぇ。」


  とは、冬獅郎の恋人であり、護廷十三隊とは別に設けられた特殊機関・零番隊の隊長だ。

零番隊とは、通常護廷十三隊では対応しきれない様な任務の処理を行う機関で、いわば死神のエリート集団である。

そんな過酷な環境で仕事をしている彼女は年末のみならず、忙しい日々を送っていた。

当然の事ながら、いくら恋人同士と言えど仕事を優先しない訳にはいかず、二人の逢瀬の時間はそう多くはなかった。


「でも、恋人の誕生日ですよ?全く何も無いなんて事はないでしょ?」


乱菊は冷めかけた茶をずずっと啜りながら、冬獅郎を見遣った。

すると彼は、訝しげな視線を彼女へ寄越した。


「何も…って、何があるんだよ?」

「そりゃ、二人の愛を確かめ合う様な事ですよ。例えば、”セックス”とか?」

 
Σぶふぅッ!!


乱菊と同様に茶を啜っていた冬獅郎は、口に含んだそれを思わず盛大に噴出してしまった。

無理もない。

彼にとって彼女の発言は、全くの想定外だったのだから。


「ちょっ…隊長、汚っ……」

「な、な、な、何馬鹿な事言ってんだ、お前は////!!」


机から身を乗り出し、声を荒げる冬獅郎の顔は朱に染まっており、まるで熟れた林檎の様だ。

挙動不審気味に視線を泳がせる様は、小さな愛玩動物を思わせた。

彼のその初心で純真な反応を目にすれば、誰もが悪戯心を芽生えさせてしまうだろう。

それは、当然乱菊も例外ではなかった。

日頃の憂さ晴らすのに、これ程恰好な獲物はいない。

彼女は気付かれぬ様にそっと笑みを深めると、声を潜めながら新しく見つけた玩具へと身を寄せた。


「隊長達って付き合い始めてから、結構経ちますよね?なのにまだだなんて……」


業と綺麗な形の眉を寄せ、あからさまに冬獅郎の不安を煽る様な物言いをする。

そしてさも、尊敬する上司が心配ですと言わんばかりに、表情を曇らせた。

百戦錬磨の彼女にとって、これ位の演技は朝飯前なのだ。


「で、でも、キスはしたぞ////!?」


乱菊の思惑通り、不安気な面持ちで自分を見上げてくる上司に更に追い討ちを掛けてやる事にする。


「キスもしてなかったら、それこそ重症ですよ。ひょっとして、遊ばれてるだけだったり……」

「馬鹿言うな!  がそんな事する訳…っ!!」

「いやですよ〜冗談ですって!  隊長がそんな人じゃないって事は、十分分かってますから。」

「………。」


勢いで強く否定してみたものの、実は余り自信が無い。

  を信じていないと言う事ではない。

彼女が好きでも無い者と交際したりする様な不誠実な人間ではないと、自分も良く分かっている。

だが、自分には彼女を惹きつけておけるだけの魅力があるのか。

言うなれば、自分自身に対して自信がないのだ。

このままでは、  の気持ちは自分から離れて行ってしまうかもしれない。

それだけは、どうしても避けたい。


「なぁ…っ、どうすれば良いんだ!?」


幾ら世間で天才児だと騒がれている彼でも、こと恋愛に関しては無知も同然だった。

経験も知識もないに等しい自分は、恋愛上級者であるこの副官に頼るしかないのだ。

これは、とても不本意な事だが。

縋る様に自分を見つめる冬獅郎を見て、乱菊が掛かった!と内心ほくそえんだのを彼は知る由もなかった。


 
 


>>To Be Continued




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