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「空豚!この人たちすごいぞ!紙から火とか水とか変な動物とかでてくるんだ!」

「ぴ、ピキぃ…?」

二人ともあちこち土だらけ、しかも傷だらけなのに、ウキウキとしています。圧倒されながらエンの隣を見ると、先ほどの青年も「すごい!何もないところから火とか水とか雷が出る!」とティカルを連れてきた大きな男の人に言っているようです。

「まぁ落ち着けよお前ら。とりあえず手当てしに家にいくぞ」

大興奮の報告を遮って、大きな男の人はちらっと空を見ました。

「ブヒっ」

またあのひとっ跳びをするのかと短い4本足をピーンとしていると、その人はそれに気づいたようです。
ずい、とエンの目の前にティカルを突き出して、「先に行ってるぞ」というと、子犬だけ連れて、またポーンとどこかに行ってしまったのでした。

「はー、あの人もすごいな。この村は超人の集まりなのか?」

エンは、あっという間に小さくなった彼を見送って、ケンカしていたはずの人を振り向きます。すると、耳の生えたほうの人が進み出て、クツクツ笑います。

「あれは人ではない。鬼じゃ。あんなのがうようよいるのは地獄だけで十分よ」
「地獄?」
「死後の世界のことじゃ。それも知らぬとは、つくづく不思議な人間よのう」

この人も最初はどこからともなく現れて、一緒にケンカしていたように思えたのですが、怪我をしている様子はありませんでした。

「シロウ、行けるか」
「二人乗せるくらいならどうとでもなろう。急ぐこともあるまいて」

そう言われて、シロウという男の人は、着ていた不思議な服の異様に幅の広い袖をブゥンと一振りしました。するとどうでしょう。次の瞬間に、大きな狐になったのです。

「おー!!」

エンは見るもの見るものが真新しく、楽しいようで、手を叩いて喜んでいます。エンの相手をしていた青年はその背にヒラリとまたがり、後ろに乗れといいました。

「いいのか?」
「尻尾と足には触るでないぞ。走りにくいのでな」
「わかった!!」

珍しい生き物に興奮しているのか、エンは嬉しそうにティカルを抱っこして、青年の後ろに器用に乗りあがります。
掛け声もなく、シロウが駆け出し、ティカルは青年の背中と、エンのお腹に挟まれる形だったのでよく見えませんでしたが、「急ぐこともあるまい」と言っていたのに、景色がどんどん変わっていくので、これは相当早いのではと思いました。

走っている途中、ふとエンを見上げると、彼はどこか懐かしそうに目を細めて呟きます。

「ウンザに遊んでもらったのを思い出すなぁ」
ウンザというのは大きめのペットだったのかしら、でもペットに遊んでもらうって不思議な言い回しだなぁとティカルは思ったのでした。


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