「・・・ふう」

どんよりと重い目頭を押さえて、プラムは無意識にため息をつきました。

「休憩なさいますか」

側近のオクがすぐに気づき、お茶の手配をさせます。
ティカルがいなくなってしまった元の世界でも、数ヶ月の時が流れていました。
ティカルの首飾りを作った魔法使いに会い、ティカルがおそらく生きているということに、とても安堵したプラムでしたが、それでも確証のある話ではありませんし、こちらに帰ってくる方法もまだわかっていません。
ですのでプラムは王としての仕事を続けるかたわらで、夜の女王のことや呪いだとかの古い文献を読んだり、詳しい人に話をきいたりしていたのでした。

「なかなか、手がかりはありませんね」

「あぁ、ニータの力は魔の者特有の術なのかもしれないな…」

そうなると魔の者しかティカルを連れ戻せないのかもしれません。しかしそれは先代の王が、強い軍隊と引き換えに夜の女王と結婚すると約束したことと同じことを繰り返すということです。
大きな見返りを求められた時にどうするか。そもそも魔の者がどこにいるかもわからない状況ではあまり有効な手立てではありませんでした。

焦る気持ちを抑えるように、ゆっくりとお茶を飲んだプラムは、仕事に戻ろうと腰を上げました。

「王、手紙が届いています」

「あぁ、先に読む」

まだ目がしょぼしょぼしますが、政務の書類よりは手紙の字のほうが大きい気がしたので手紙を読むことにしました。いままで座っていたソファにまた座りなおし、丁寧に封を切ります。

いくつか手紙の中に、ファファからの手紙が入っていました。ティカルの弟である彼は、魔法使いのおじいさんと一緒に国に帰りましたが、彼なりにティカルを助けたいと思っているらしく、定期的に手紙を送ってくるのです。
今回の手紙は、なんとティカルに子豚になる呪いをかけた張本人、森の奥でひっそりと薬を作っている女の人に頼み込んで、占いをしてもらったとの内容でした。

この世界にはいないティカルの未来を占うのはむずかしかったため、プラムのことを占ってもらったそうです。

「田舎が吉、か・・・」

ぼそりと呟くと、あまり興味なさそうに次の手紙に手をつけました。呪いで散々な目にあっている彼ですが、実のところ占いはあまり信じていなかったのです。
しかし次の手紙を読んで、プラムは「むむ」と唸りました。

その手紙は、プラムの古い知り合いで、小さい頃に見聞を広めるために、しばらく滞在していた農家の人からでした。
大事な人を突然失って、失意の中でも気丈にがんばっていると噂の王様を心配して、「たまには遊びにおいで」と手紙をくれたのです。そしてその人の家はとても田舎なのでした。

手紙を持つ手が、じんと暖かくなったことで、いままで手が冷たかったのだとプラムは気づき、苦笑しました。

「王様?」

手紙を読んでクスクス笑っているプラムを、不思議そうにオクが見ます。子豚を神様の使い、もしくは天使として崇める信仰の彼も、率先してティカルを呼び戻す策を手伝ってくれています。つまり二人ともずっと働き詰めでした。

「行ってみるか」


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