「空豚、ちょっと歩いてみるか?」

「ぴい・・・」

ハルとカイの家を出て、しばらく歩いた頃、夕焼けを見ながらエンがそういいました。
これまでの経験から、ティカルの足元が違う世界の入り口になっているようだと気づいたのです。

ティカルにもエンのその考えがなんとなくわかって、恐る恐る歩いてみます。
そのまま近くにある村に向かって歩いてみましたが、違う世界に行くかもしれないと思いながら歩くと不思議と何も起こらないのでした。

「何も起こらないな…」

「ぶひぃ」

なんだか自分のせいなような気がしてしょんぼりしてしまうティカルです。
耳が垂れてしまったのを見て、エンは吹き出してクスクス笑います。

「しかたない。ヲーンとかいう虫に気をつけながら歩こう」

エンとティカルはキョロキョロしながら歩いたのでした。

***


「しまったなぁ。本当に何も起こらずに夜になってしまったぞ」

夜空を見上げて、エンは頭を掻きました。
今のところヲーンは出てきていませんが、さすがに野宿をするのは怖すぎます。村はまだ先のようです。

焦りそうになる心を落ち着かせようとエンは大きく息を吸って、「あれ?」という顔をしました。不思議そうな顔をするエンを見上げて、ティカルは首を傾げます。

しばらく考え込んでいたエンは、ようやく合点がいった顔をして「夜が違うんだなぁ」と言いました。

「ピぎ?」

「どうやらこの世界には、魔王という存在自体がない。

俺は魔王はいなくても魔族のいる世界で生まれたから、夜になると魔の雰囲気を無意識に感じていたんだろうな」

なんだか変な感じだ。と呟くエンの横で、ティカルは「夜」「魔」と聞いて、夜の女王ニータのことを思い出していました。そして自然とプラムのことも。

「ぴぃ…」

プラムはどうしているのでしょう。元気にしているのでしょうか?
もう夜が嫌いでなくなっているといいなと、ティカルは思いました。


そのときです。あのブニっとした感触がティカルの足を襲いました。

「ブヒー!!」

「うぉ!来たか!」

三回目ともなると、エンは無理にティカルを引っ張ろうとせず、ティカルのお腹をしっかり握ってはぐれないようにします。
沼のようになった地面に吸い込まれながら、やはり本能的に小さな4本の足をジタバタさせながら、ティカルはぼんやり思いました。

プラムのことを考えると違う世界にいくのかな?
少しずつ、近づいているといいな。と。


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