宮嵜は数多の資料を眺めながらため息をついた。明日までのレポートにまだ手垢すらつけていない。普段極力優等生を演じて居たい宮嵜には忘れましたなどと手を挙げるのは許されない。というか耐えられない。

「宮、その顔やめて。」

いつのまにか苦虫を噛んだような顔をしていた宮嵜の肩に彼は後ろから顎をかけて言う。
宮嵜が欝陶しそうにそれを手で払うと、彼の鼻から顎が水に溶けるように揺らいだ。

「悪霊のくせに。」

宮嵜は眉間に皺を溜めたまま椅子ごと身体を振り向かせた。
悪霊と言われた彼は宙を漂い楽しそうに笑う。

「ずっと一緒に居るのに、その言い草はないでしょ。」

「なら椿、お願いだから邪魔しないでくれ。」

椿は女物の着物を着ている変な男だった。
正確には変な男の幽霊とも言おうか。
しかし彼が赤い着物を羽織り長い髪をとかす様は本当に人間の女のようだった。美しいとも思う。
思えばいつからだったか。
宮嵜が彼と過ごし、そう思うようになったのは。

「何考えてんだよ。」

長い髪の毛の間から顔を覗かせ頭を百八十度回転させる椿はお世辞にも美しいと言えるものではなかったが、宮嵜には慣れたものだ。

「別に。」

「俺にはわかるぞ。」

「......なんだよ。」

「今日の夕飯なんだろう。」

「脳たりんめ。」

宮嵜はため息をつき、仕事の続きに取り掛かる。
椿が悪態をついていたが気にはしない。
それはいつものことであり、宮嵜は鼻から笑いを零す。そして呪ってやるぞーと冗談まじりの悪態をつき騒いでいる椿にそっと感謝をするのだ。


( 幽霊のいる生活(オリジ/BL) )



ぜいたく

|

-エムブロ-