母は一人でいると不穏になるようだ


土曜の午後、私が玄関先で庭木の剪定をしていると


母がバッグを持って玄関から出てきた


「どこに行くの?」


「もう家に帰ろうかと思ってねぇ」


「ここが家だよ。どこにも行かなくていいんだよ」


「家でばあちゃんが心配してるだろうからね」


「ばあちゃんって。どこのばあちゃんだよ。もう自分がばあちゃんになってるじゃん」


「そうだったかねぇ」


これを2度繰り返す


「あなた、ちょっと見て」


翌日、妻が玄関の電話横に立て掛けた月行事の黒板にチョークで書かれた文字を発見


「これ、お義母さんが書いたのかしら?」


黒板に


『内(うち)にかえります。おせ禾(たぶん和)になりました』


幼子が書いた、やっと読めるような字だ


「あぁ、そうだろうね」


認知症を理解するのは困難を極めるが、本人は真剣なのだろうという事は理解出来る


茶の間のテーブルにも広告の余白に同じような書き置きがあったのだ


2度、繰り返してるからな