家の北側に一本の木がある
葉っぱは棘のようになっていて、素手で触るとちくちく痛い
針葉樹だろうから北国ではお馴染みなのかも知れないが、九州ではなかなかお目にかかれない木のようである
高校を卒業して神奈川の企業に就職、両親と離れて暮らしていた私は十三年ぶりに実家へ帰って来た
一年前に結婚した妻と共に
その時、既にこの木はあった
それまで両親は祖母と三人で暮らしていたのだが、私達夫婦に子供が生まれ、家族も増え、家に二階を増築することになった
その際、通し柱の邪魔になるというので、一メートルほどその木を移動させた事がある
細い幹に似合わず、随分と太い根が張っていた
かやの木
「かやの木を植えておくと、遠くで暮らす子供さんが帰って来るそうですよ」
両親はこの話を知り合いから聞き、いてもたっても居れず、子供が帰って来るという、その木を探し始めた
だが、日本の北部に育つかやの木が九州で簡単に見つかる筈もなく、両親はかやの木を訪ね、方々を探し回る
そして遂に‘かやの木’は見つかった
小さな苗木を分けてもらった両親の喜びは、さぞ大変なものだったに違いない
私が神奈川で働いている間、一度も‘帰って来い’とは言わなかった両親
二人の夢を叶えた‘夢の木’は今、屋根の高さまで成長している