*まとめ*




 「……んあ?え?……あれ?僕……何でこんなとこに居るんですか?つーか銀さん?桂さんに坂本さん……何でアンタら四人とも雁首そろえて……」
 
 まず横手にいる銀時に目を留め、桂を見て、視線は坂本を流れ……そして最後は目の前の高杉にたどり着く。

「って、た、高杉さんんんんん!?!?え、今までのって夢じゃなかったのォ!?」

 瞬間、ボンっと爆発でもしたような勢いで新八の顔が盛大に赤らんだ。大慌てでズザザッと後退り……たかったようだが、あいにくと新八のそんな勝手を許すような高杉ではない。
 従って、新八はまだ延々と高杉に抱き締められているだけだった。

「……フン。何だテメェ、俺を夢幻の類いとでも思ってやがったのか。あいも変わらず腑抜けたツラしやがって」

高杉は息を吐く。とりあえずは何の意識混濁も見せない新八に安心し(いやある意味では一部大いに混濁していたが)、いつものように皮肉を吹く。
 
「うん……何か凄いリアリティーのある夢だなって。でもマジで皆してどうしたんですか?何かありました?」

 目覚めたばかりで何が何やら訳も分からないのか、新八は絆創膏の貼られた頬をごしっと擦った。そして擦ってから、はたとその感覚に気付いたらしい。大慌てで自分の身体を検分し始める。包帯や絆創膏だらけの、いかにもな怪我人のそれである自分の手足を。

「てか僕の身体、怪我ばっかり!え、どうしてです!?高杉さんこそ斬られて、怪我してたんじゃ……」
「ああ、俺の方が純粋に傷は深えが……数ではテメェの方が怪我が多い。擦り傷だがな」

 そこに気付いた途端に、新八は高杉の左腕から手を離す。気付けばずっとそこに力を込めて手をかけていたので、高杉には負担のあった事だろう。だけど特に何も言われなかったことは、新八の頬をますます赤くさせた。
 
「てか新八お前、高杉のこと庇って崖から落ちたんだよ。そんで三日間も気ィ失ってたんだぞ?」

 真顔で新八を覗き込むのは銀時だ。しかし新八には訳も分からない。分からないにも程があるのだ、まさか自分が三日間も気を失っていたなんて。

「は?!僕が?!」
「そうだよ。そんでよォ、お前が一向に目ェ覚まさねえから……俺たちはさっきまで軽く通夜モードだったわ。軽く葬式会場に電話するとこだったわ」
「ええええ?!お通夜!?勝手に僕を殺すなよ、しかも軽いノリで殺してんじゃねーよ!」

銀時の言い草にだって、いつものようにツッコむ。されどようやくもう一つの事柄に気付いた瞬間の新八は、本当に息が止まるかと思ったのだ。


「てか……なら、さっき僕が喋ってた事……皆さんは聞いてたって事ですか?高杉さんも?」

 夢だ夢だとばかり思っていたのに、新八は先程までの記憶がちゃんとある。夢だと思っていたからこそ高杉に告白してしまったことも覚えている。好きだ何だと、そりゃあもう熱烈に。
 新八だとて夢見る十代なのだ。あんなロマンの欠片もない告白を自分がするなんて、その、当の自分がまず受け入れられない。

 さあっと血の気が引く思いで目の前の高杉を見れば、不機嫌そうにプイッと頬を背けられた。その背けられた頬の僅かに赤いのを見て……再び大いなる赤面地獄に陥るのは新八でしかないのだ。哀れ十代の末路やここに、である。

「うわあァァァァァァ!!い、いっそ殺せよォォォ!!無理!マジ無理ィィィィ!!」

 ジタバタと暴れ回る新八の肩を押し戻し、布団にぎゅむぎゅむと押し付けんばかりに力を入れるのは桂である。

「まあいい。とりあえずは新八くんはまた横になるんだ。急ぎ医者に診せることにしよう。後遺症でもあったらいけないからな。そして可能なら、今すぐ食事を摂ってくれ。新八くんは三日間も何も口にしていない」

 そんなお母さん的な助言には、さすがの多感な十代だとて素直に頷くのみだった。こっくりと頷いて、その途端にきゅうぅと鳴いた己の腹に手を這わせる。

「あ……ハイ。そう思ったら何かお腹空いてきました。盛大に」

 まるで重病人かのように桂が恭しく掛け布団をかけてくるのを眺めつつ、新八はこそっと笑う。意識した途端に腹が減るだなんて、健康体もいいところである。
 そんな少年を見ていたのは、もういつもの表情に戻った銀時だった。

「ほんっとさー……新八くんよォ。てめえ三日間も昏睡状態だったくせによ。今にも病院に担ぎ込まれそうになってたんだぞ、新八は。それを、いきなり起きたと思ったら高杉に延々と愛の告白ってか?」

 再び寝そべった新八の額に手を置き、優しく撫でる。でもその言葉に含まれたからかいには、全力で反応してしまうのがガラスの十代なのだ。

「や、止めろっつーの!僕は今物凄い後悔してるんですからね!十代の頃の黒歴史って案外一生心に残ってるんですからね!そこはもう放っといてくださいよ!」
「いや知らねーよ、てめえの黒歴史誕生の経緯とかよォ。どうでもいいわ。でも後悔っつーのは、高杉の意見を聞いてからでもいんじゃね?」

 赤面で言い返した新八を笑い、銀時が高杉をくいと指差す。新八はまだ訳も分からぬまま、しかし高杉とは決して今は目を合わせられなかった。
 自分がどうやら奇跡的に生還を果たし、こうして皆に心配をかけたことは分かるが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしかった。

「え?あ……う、うん」
「そんで新八は……てめえをすげー心配してた俺に対するご褒美、てか詫びの品もちょーだい」

 新八がおずおず言うのと同時に、銀時はいつもの調子でニッと笑う。でも『詫びの品』なんて改めて言われたところで。


「えええ?どんなですか」
「んー。こんな」

 クエスチョンマークを盛大に浮かべた新八の唇に、身を屈めた銀時の唇がちょんっと重なったのはその一瞬後のこと。

「ぎ、銀さんんんんんん!?」
「テメェ……何してやがる銀時」

 かああっと頬を染める新八と、ダンッと素早く片膝をついて凄む高杉を交互に見て、銀時は唇に人差し指を軽く置く。別にィ、なんていかにも人を食ったような笑みで。


「いや何って。キスだろキス。チューしただけ」
「だけじゃねェ、それだけの問題じゃねえ。テメェもう新八に手ェ出すな。触るな近づくな、目も見るな」

 ガルルルと唸る高杉をいなすように、銀時は淡々と喋る。そりゃあもういつものように、人の恋人にチューをかました事なんてまったく悪びれもなく。

「いいじゃねーか、自分はもっと凄えことしてるくせに」
「俺ァいいんだよ」
「良くねーよ。俺にもさせろよ」
「嫌に決まってんだろうが」
「いいやする、むしろ今後は舌を入れていく」
「ふざけんな。誰が許すか」
「誰がって、べっつにお前みてーなクソチビの許しとか銀さんには必要ねーし。俺と新八だぞてめえ、チビの知らねえ既成事実なんざこちとら山のようにあんだよ」
「……。オイ……とりあえず表出ろやクソ銀時」
「あん?なにその目、やんのかよコラ。上等だよプルトップが。今日こそベッコベコにへこましてやっからな」

「いや待って、何でアンタ達はいつも僕を無視して当の僕の利権を延々と争うんですか。とりあえずアンタ達は僕に人権を返せよ、そして即座に喧嘩しだすのをいい加減止めろよ!」

 物凄いような目で銀時を睨む高杉と、それとは反対に何となく楽しげな銀時。
 そうやって対峙する両者にツッコむ新八の声だってもう物慣れたそれだ。まったくもー、なんて嘆息で締めくくるのもいつもと同じ事。そんな三角関係の構図は、こうなった今もまったくもって変わらないのだ。


 そして三人がそうなら、それは三人を見守る桂と坂本だとてお馴染みのテンションである。


「アッハッハ何この三角関係!野郎ばかりで痴情のもつれもいいとこじゃあ!銀時も引かんからのう、こりゃ今後もまっこともつれるばかりよ」
「全くだな……これほどにこの三人が爛れているとはな。今後は俺がもっと厳しく、高杉と銀時を公平にジャッジメントしていく必要がある。重責だ」
「せっかくじゃ、わしらもデキてみるっちゅうんはいかがなもんぜよ。ほらほら、ヅラもチューくらいグイッといっとおせ」
「巫山戯るな坂本。グイッといける筈がないだろう貴様、何を一気飲みのように軽いテンションで俺に勧めている。俺にも選ぶ権利はあるぞ」
「ったく、何ちゅう可愛げがないんじゃ。もうちっくとわしに甘くなってもええんじゃないかのう、おまんは」


 一部はお馴染みで、また一部はどうにも馴染みのない言い合いを交わす五人の若人たちを、朝陽が優しく照らし出している(いや優しく照らされてんのにお前らときたら)。