ユカリの自宅の近辺に有名な観光地があって、そこでも著名なパン屋併設のレストランにこの間行って来たんですよ。ママ友6人で。そして駐車場に着いたら県外ナンバーの車ばかりで、てか首都圏のナンバーばかりで、やっぱりここ人気あるよね〜高速使っても来やすいしね〜とか、和気藹々と友人達と会話してたのですよ。ユカリも高原の清々しい空気を満喫してたりして。だがしかし、しかしですね……この後に事件は起こった(あくまでも自分の中の)

茶色のかわいいチワワを連れてるおじさんが一人店外にいて、レストランの開店待ちをしてる間に私や友人達と少し話してたのね。その時に、「そのチワワのお名前って何ですか〜?」って友人の一人がふと何気なく聞いたの。全くなんて事のない会話の一端で。

そしたらおじさん、
「この子はね、ちょっと有名な声優さんに名前をつけてもらったんですよ。だからその声優さんのあだ名をもじって名付けられてるんです」と。
この時点でユカリの内心はざわめく。
「(え、有名な声優さん……?誰だよ?!この人関係者かよ!)」
しかしユカリ、心のキョドり具合とは裏腹に全くの素面顔!オタク関係の事柄が思いがけず会話に出てつっこみたいのに迂闊につっこめない、そんな哀しい擬似一般人オタクがここに状態ですよ。

この時のおじさんがノリが悪かったら、もうそこで終了してたかもしれない話です。ここで終わってたとしてもおかしくない。だけど優しくもサービス精神溢れるおじさん、チワワの名前の由来を訥々と語り始める。

「この子ね、クッキーって言うんです。声優の釘宮理恵さんが名付け親なんで、釘宮さんのあだ名のくぎゅにちなんで(ふふ)」

これを聞いた時のユカリの内心のぽぽぽぽーん!(懐いなオイ)具合ったらなかったですよ、ええ。くぎゅかよォォォォォ!!??みたいな。
え、おじさんはくぎゅの何!?親戚のおじさんなの!?関係者なの!?ねえ教えてよ、むしろアンタがユカリと握手しろよ!いやしてください、お願いだよおじさんんんんんんんんん!!!(いやうるせえ)

……ってな具合に内心は大いに騒めきつつ、しかしながらユカリは一般人相手にオタクを隠し続けて早十五年?くらいの(無駄な)ベテランにはなってるので、
周りの五人の友人達が、

「え?誰だろ〜知らないです〜」とかお気楽ににこやかに呟いてるのに完全に合わせてるのね。内心はある意味焦燥に駆られてざわついてんのに、
「ゆ、有名な声優さんなんですか〜へえ〜」
とか、マジで一ミリも思ってないことを呟いている。釘宮さんの事なんて知らない筈がないのに、あくまでも友人達に合わせて自分を殺している。装っている。
こんな経験がですね、隠れオタクの方は皆あるに違いない。大なり小なりあるに違いないです。

しかしながら、ユカリもユカリで必死。おじさんがくぎゅの何なのかを聞き出したくてたまらないため、さり気なさを装いながらも必死。あくまでもさり気なく興味を持ったフリをしつつ、おじさんとの距離を図る。内心でのクローズをはかる。もう一周回って自分の横顔を張り倒してやりたい、心中でのもう一人の裏ユカリがよそ行き顔の表ユカリを叱咤する、建前と本音が胸中で錯綜する、そんなユカリ(よく分かんねえよ!)

そしたらば、おじさんはにこやかに。

おじさん「声優の釘宮さんって、銀魂の神楽の役とかしている方ですよ(ふふ)」
友人1「ぎんたま??うちの子供に聞けば分かるかな〜?」(←子供がもう中一のママさん)
友人2「そうなんだ〜。有名な作品ですか?すご〜い!」(←一般のママさんとして至極真っ当な反応)

……!!!???

おいおいおいィィィィィィ!!??

ふざけんな!これだから素人は!トーシロは!(だから懐いよ)
こっちは知らねえどころじゃねえよ、釘宮さん大好きだよ!子供が知ってるかも?じゃねえんだよ、私本人が大好きだよ!何回もイベントで拝見しているよ、くぎゅの声を色んな媒体で楽しんでるよ、だからもうアンタがユカリと握手してくれよ、頼むからおじさんんんんんんんん!!!!(嫌だよ)

しかしながら、ユカリだって一応は常識のある(フリをしている)隠れオタク。ここで怒涛の勢いで、

「釘宮さんんんん!?大好きですファンです、来年の春の銀魂イベントも行く予定です!おじさんは釘宮さんのご親戚ですか知人ですか何なんですか!?いっそ握手してください!」

などと捲したてるのは簡単なのですよ。オタクとして邁進するあまり、我を忘れて、一般人の友人の前で熱く語らってしまうというね、友人達がドン引きするのも構わずにベラベラと自分語りしてしまうのはとても簡単なのです。だってユカリはオタクです。人生の半分以上を生粋のオタクとして過ごしてますよ、簡単なことです。
だから本当に苦しい事は、そんな激しい内心を抱えつつも、狂おしいまでの葛藤を抱きながらも、

「へ、へえ〜!すごいですね〜!」

などと顔面に笑顔を貼り付けつつ、語ってくれたおじさんのご厚意を決して踏みにじらないように努力はしつつ、大人の意地で決して友人達の前でオタクを出さない表ユカリです。友人達に合わせて何も知らないフリを貫き通してた、ユカリなのです(ある意味クソ馬鹿野郎)

……あああああああああ!!!!もう!!カッコつけやがってユカリの馬鹿野郎!


↑この件を思い出すだに、自分のチキンぶりに嫌気がさすユカリですよ。だってこの話が終わった時点くらいでレストランが開店したので、おじさんとは別れてしまったのです。当然ながら、この少しの邂逅はここで終わったんです。おいおい何も実りがねえよ!ちくしょう!
万が一ね、この時に一緒に居たのがオタク友人だったらば、ユカリなんて絶対おじさんと握手してたし、おじさんとくぎゅの関係性を問うてたし、なんならチワワを抱っこしてたぐらいだと思うよ。むしろチワワ離さんくらいでもおかしくねえよ(急に本性むき出しに)(てかど厚かましいなオイ)

ほんとね、こういう予期せぬ事があるから人生は楽しい&辛い訳です。