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Many Classic Moments53

*まとめ*





「……高杉さん、す、き……」

 その言葉。口にすればたった二文字で、短く、簡素で、だけど高杉がどうしても口にできなかった言の葉。

 高杉に向けて確かに新八が言った『すき』の言葉に、その言葉が持つ意味に、高杉が目を見開く暇もなかった。だって高杉の耳に新八の声が届き、脳みそに到達した途端、当の新八が急にガバッと飛びついてきたからだ。


「高杉さん!大好き!!」

「「「「!?」」」」

 新八の放った声に、またもや四人全員が息を飲む。
 不意打ちでタックルをかまされたも等しい高杉は、畳の上に盛大に尻餅をついた。でも辛くも新八の身体を抱き留め、その重みをしかと抱き締める。
 しなやかな身体を抱くと、鼻先を掠める新八の匂いがある。その体温と、変わらぬぬくもりがある。

 いつだって高杉を落ち着かせた新八の鼓動は、ちゃんとその身体の中でドクドクと脈を打っている。熱く、確かに息衝いている。


「……新八」

 どれだけの想いを込めたか分からないような声で、高杉は長く長く息を吐いた。声に滲んだ想いがもう何かなのかなど、最早この場にいる全員に知られていよう。けど、もうどうでもいい。新八がまた自分の名を読んでくれたことに比べたら、果てしなくどうでもいい。

 でも、ありったけの力でぎゅうぅと抱き締めると、

「バカ!新八が潰れるわ!」

銀時に叱られたので、慌てて力を抜く。だけど新八を抱き締める腕は解かなかった。決して離しはしないように、それでも気持ち分だけはそうっと抱く。

 高杉の腕の中で、新八は泣いていた。一向に目は開けぬのに、ひぐひぐと啜り泣き、えぐえぐと喉まで鳴らしていた。
 
「うぅ……ひっ、ひぐ、す、好きぃぃぃ……高杉さん、好き。大好きィィィィ……」

……そして恥ずかしいことに、幾度となく高杉に告白していた。何度も何度も「好き」と呟き、えぐえぐと鼻をすすっている。その盛大な告白には、高杉の頬こそ赤らんでくる始末である。

「好きですぅ……ぼ、僕のこと、高杉さんが好きじゃなくてもいい。僕の身体しか目的じゃなくても」
「いや……何言ってんだテメェ。誰がお前の貧相な身体なんざ……いいから黙れ」

しかしながら、その告白が突如として変な方向に行ったものだから高杉もツッコまざるを得なかった。けど新八はと言えば、まだ健やかに瞼を閉じたままだ。起きているのか眠っているかも分からない。

「僕が、な、何回嫌って言ってもやめてくれないし……僕のことすぐひっくり返すし、際どいところでばっかりキスしてきたり、」
「だから黙れテメェ、聞いてんのか。むしろ殺されてェのか」
「それでも高杉さんが!好き!……そ、そんなにクソ野郎でも好きなんだよボケェェェ!!」

しまいには高杉が極めて仏頂面になった辺りで、新八はようやく言葉を切った。啖呵なのか告白なのか、もうその言葉からではよく分からないにも程がある。

 なのに。


「いっ、意地悪だし、ワガママだし!地味だのガキだの言って僕のこと苛めるし!僕の話なんて徹底して聞きゃしない!危ない事ばっかりしてるし!……なのに、なのに、アンタほんと不器用。僕の見てないところでだけ、僕に優しくすんのやめて……」

 次に勢い込んで語られた言葉は、到底高杉への罵りではなかった。新八はぎゅうぅと高杉の胸にしがみつき、己の気持ちを吐露していく。

「好きになっちゃう……」
「…………」

今度こそ高杉は何も言えなかった。新八はいつだって素直な少年だが、ここまで素直に高杉への気持ちを語る新八の言葉を聞いた事なんて初めてで──その必死さに不意に胸が軋んだせいだ。ズキンと刺すような痛みが走る。
そして、こんな痛みを抱えていたのは、どうやら高杉だけではないようだった。
 
「伝えればよかったよ。あんな事になるなら、僕の気持ち、アンタに……好きだって……ほんとはずっと前から、僕は……」

ずびずびと鼻を啜りながらだったが、新八はようやく言い終える。言い終えたあとは満足げに寝息を立てていたが、新八は確かに言った。自分は高杉に惚れているのだと。


 高杉が新八に惚れているのと同じように。



 今の新八の言葉を聞くにつけても、新八が持つ高杉への想いは一目瞭然だった。恥ずかしいほどにこの場の四人には知れ渡った。それにはやはり何故か頬を赤らめた桂が、ゴホンと咳払いをしている。

「……し、新八くん……泣いているのか?意識はあるのか、むしろこれは寝ぼけてないか?しかし起きてすぐ高杉に飛びつくとはな。これだから最近の十代の性の乱れは……」
「しっかし……何ちゅう大胆な告白じゃあ。ある意味男らしいぜよ、新八くん。ちゅうか高杉もコソコソ何しとるんじゃ。何を物陰でしっぽり決め込んどるんじゃ、やらしいにも程があるきに」

こちらも頬を僅かに染めた坂本が、チラッチラッと思わせぶりに見やってくる視線が高杉には鬱陶しくてならない。そして新八の言葉を余すところなく聞いていた銀時と言えば、ぽりぽりと頬を掻き、大いにぼやいた。

 ハアァとこれみよがしのため息を一つ追加してから。

「……つーか何これ……完全に寝ぼけてるよ、新八。昏睡状態って感じじゃねーし、完全に三日間寝こけてた感しかねーし。俺の真剣モード、てか葬式前みてーな俺らの緊張感を返せや。無駄に胸倉掴み合ったり、無駄に怒鳴り合ったりしてよォ、アレは何だったんだよ?茶番かよオイ、これでマジ一気にだらけたわ」

 銀時の声に同調するように、まだ目を開けぬ新八の顔を桂が覗き込む。
 高杉の腕の中で新八はまだ何かむにゃむにゃと言い掛けていたが、今は穏やかな顔だった。まるでずっと胸につかえていた言葉をやっと吐き出せたかのように。

 そんな新八を見ていれば、そして新八を抱き締めたままでいる高杉を見ていれば、文句を言っていたはずの銀時だってもう笑わざるを得ないのだ。
 ふっと微かな笑みを浮かべて腕を伸ばした銀時は、新八の黒髪をわしゃっと撫ぜる。無言で高杉と目を見合わせたが、もう何も言うことはなかった。

 桂はまだ何か言いたいことがあるようだったが。


「ああ……完全に寝ぼけて、だが訥々と高杉の性癖まで語らっていたな。高杉は際どい所で延々と新八くんに接吻すると。延々と新八くんの唇を求めて止まない、と」

と言えば、同調するように坂本が頷いた。

「高杉は……新八くんをすぐひっくり返す、か。何ちゅうか……バックがやりやすいんじゃろうな」

と頷けば、やはり銀時の胸には次第にふつふつとしたものが去来する。

「まあ位置的にな。……てかもうムカつくわ、やっぱムカついてきたわ。俺に隠れて何やってんのお前らァァァァァァ!!新八は嫁に出さねえ!どこにも!」

ほんの少し黙っていただけでもう口さがなく言い募ってくる銀時を眇めた双眸で見やり、高杉は渋々と口を開いた。

「……テメェら……とりあえず俺に刎ねられろ。今すぐ全員首晒せ」
「ざっけんなよ!何でてめえだよ!てめえこそ俺に首寄越せや!てめえの頭蓋骨に金箔貼って、織田信長ばりに美味く酒を飲み干してやんよ!」

何となく言いづらそうにする高杉に向き直るのも、ツッコむのも当然の如く銀時なのである。かつての逸話を持ち出してまで怒っている。高杉はとりあえず目を逸らしている(お前)。
だけれど、そんな銀時の剣幕はそうも続かなかった。突如としてパチリと目を開けた新八が、寝ぼけ眼を擦りながら顔を起こしたからだ。


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