ねえ、お風呂で紅茶を飲むと体にかかるの。わたしの飲みかたがへたくそだって?そだね、いいですよへたくそですよ。溢れた紅茶は、浴槽の隅まで広がっていく。でも、見た目にはわからないの。だって、色が変わらないから。それって海に汚染水を流しても、海が青いのと似てると思わない?

お風呂の詮を抜いたら、浴槽の水はなくなる。だから似てはいないよ。


はあ。ひろゆきにはロマンが足りないよ。あと論理性。わたしは、色が変わらないことが似てるって言ったの。もう。


そうかそうか。ゆりの口から論理なんて言葉が溢れるとはね。あ、でもちょっと溢れただけだから、ゆりが馬鹿であるということは変わらないよ。


溢れるはあふれるとも読めるのよ。わたしは、積み重ねた論理があふれてるの。


あふれるのもこぼれるのも、いっぱいなものからオーバーすることにちがいないじゃんか。


いいの。なんとなく違うの。こぼれるのはいやなの。寂しいの。響きが。



寂しさか。ふうん。海ってあふれもこぼれもしないね。地球は論理どれくらい積み重ねているのだろうか。


知らないわ。いくらでも馳せなさい。そうすれば、ちょっとはロマンチックな人になるかしら。楽しみ。じゃあ、わたしお風呂わかしてくる。ひろゆきはごはんね。


バタンとなぜか玄関が閉まるような音が聞こえた。今思うと、気に留めておけば良かったと思っている。


「○△湾で女性の溺死体が見つかりました。全身に無数の傷があり出血多量の状態で海に入ったと見られています。地元警察は、他殺自殺の両方の線で捜査をしているが、現場近くで被害者が一人でいたという通報もあり自殺の可能性が高まっている、とのことです。」


くだらない会話をしていた自分が悔しくて、涙が溢れ落ちる。きれいな円の水滴だ。そして海への畏怖がまた涙を溢させる。ふとしたを見る。見ると先程の水滴のちょうど真上にまた涙が落ちたみたいだ。きれいな円は大きな楕円へと変わっている。不謹慎かもしれないが、なんだかそれが地球の形のような気がして、思わず笑ってしまった。完


ひさしぶりのショートショート。風呂で書きました。