話題:今日見た夢




何かに呼ばれ山道を歩いていた。
行きたくはなかったが、私を呼ぶ何かの声に抗えなかった。
草木を掻き分け先へ先へと進み、気付けば何処に居るかも分からない。
それでも歩みは止められなかった。

ふと気付けば草木しかなかった視界が拓け、朽ち掛けた社のようなものと苔や落ち葉で覆われた石畳が現れた。
恐らく神社や、或いは何かを奉っていた場所なのだろう。
鳥居は見当たらなかったが、朽ちた注連縄が引っ掛かるように絡まっている大きな木が生えていた。

暫く其処を探索する。
廃墟のように見える此処は手入れがされているらしく、放置されているにしては小綺麗な印象だ。
近くには小さな沢が流れており、透き通った水がチョロチョロと音を立て流れていた。

一通り周辺を探索すると先へ進んだ。
するとコンクリートの道が現れ、その先には古いものばかりだが数件の家が建っていた。
家々はその見た目から廃屋に見えるが、その内何軒かは比較的新しい型の車が傍らに停まっているので、もしかしたら人が住んでいるのだろう。

助かった。

そう思い、そちらへ向かおうと足を向けると、ふいに視界の端にある建物が入った。
思わず目をそちらへ向ける。
古い造りの家?だが、なかなかに大きく手入れもされているのか綺麗で、壁に立て掛けられている丸太から切り出したと思われる、木目の綺麗に浮かんだ看板には『郷土資料館』と書かれていた。

此処なら人が居るかもしれない。

何かに導かれるようにしてその建物の戸を開けると老婆が一人、ストーブの前に座っていた。
老婆は私に気付くと『あらあら。お客さんですか』と笑う。
山をさ迷っている内に此処に辿り着いた旨を話すと『それは災難ね』と云い、『折角だから此処でも見ていってちょうだい』と此方の返事も聞かずに、近くの棚から幾つかの包みを取り出した。

それは何?と思わず訊ねる。

『遺品ですよ。此処は昔、流行り病の患者が一纏めにされていた場所だから、沢山あるの』

老婆はそう云って包みを一つ解く。
中には干からびた蜜柑が幾つかと古びた写真が入っていた。

『この包みの持ち主は蜜柑が好きだったの。最後には何も食べられなくなってしまったけど』

更に別の包みを解く。
中には使い古されてボロボロの文房具が入っている。

『これは小学校の子のね。勉強が好きな子だった』

淡々と包みを解き、中身の持ち主の事を語る老婆を制止すると中を見学したいとその場を離れた。

建物は広く、老婆の居る十畳ほどの広間を抜けると更に広い広間が続いており、当時使っていた生活用品や、隔離されていた人々の遺品と思われるものが並べられていた。
その中の一つに目をやる。
額縁に入ったそれは古びた新聞で、茶色く変色した顔が不自然に歪んだ子供の写真が印刷されていた。
劣化していてまともに読む事は出来なかったが、何となく読み取れた部分から、どうやらこの写真の子は流行り病の生還者で社会に復帰する事が出来たものの、病により崩れた顔の所為で受け入れてもらえないといったものだった。
この子がどうなったのかは分からないが、恐らくまともな余生は送れなかったのでないだろうか。
他にも色々なものがあったが、はっきりと記憶に残ったのはこれだけだ。

其処から先に進んだ先の廊下には、幾つかの小部屋があった。
中を覗く事はしなかったが、扉に番号の書かれた札があったので隔離された人間が使っていたのだろう。

いつ頃からあるのか分からない建物内は掃除されて綺麗にしてあるものの壁や柱、床には当時付いたと思われる傷や、血の付いた指を擦った跡、吐血でもしたのかどす黒い染みがあちらこちらに染み付いていた。
その生々しい痕跡に息を飲んだ。

一通り建物内を見て回ると老婆の居る広間に戻る。
するとさっきまで居なかった男や老人が集まっており、此方へ一斉に視線を向ける。

『此処は若い人が居ないから、貴方がこの村を守るように此処に居なさい』

そういった旨の事を老婆がニヤニヤと笑いながら口にする。
集まっていた男達がジリジリと此方へ向かってきた。

咄嗟に建物の奥へと駆け込むと、窓の一つを展示されていたものを叩き付けて割り、其処から外へ飛び出した。
逃げ場はないといった様子でゆっくりと近付いていた男達は慌てているのか、バタバタと足音を立てて騒いでいる。

それを振り切るように掛けていると、小さな男の子が此方へ手を振っていた。

『着いてきて』

そういう男の子の後を追う。
冷静に考えれば怪しいのだが、この子は味方なんだと何故か信じていた。
元来た山道を男の子を追って掛け降りていく。
途中、日が落ちて辺りが闇に沈んだが男の子の姿はやけにはっきりと見え、闇に塗られた山道を地形をちゃんと把握しているかのように足が勝手に進んでいく。

ふと気配を感じ顔を上げると木々の間から月明かりに照らされ、周りの木よりも背の高い人間のようなものが長い首を曲げ、此方を見下ろしていた。
運の良い事にそれの顔は逆光で見えなかったが、風の抜けるような不気味な声で『おいで…おいで…』と繰り返す。
思わず声を上げそうになったが、前の方から男の子が『見るな!』と声を上げたので、すぐに目を反らした。

ガサガサと足元の枯れ葉が砕ける音が耳につく。
男の子のものと私と、もう一つ。
あれが追い掛けてきているのだろうか。

きっと此処は人の領域ではないのだろう。

ふと頭にそんな事が浮かぶと、ひょろりと伸びた首を思い出した。





その後、どう進んだのかは分からない。
ひたすら前を駆ける男の子だけを見て走っていくと、急に視界が明るくなった。

その光に目を細めると大勢の警官や人が集まっていた。
どうやら山に入ったきり戻らない私を探していたらしく、心配したと云って駆け付けた相方に抱きしめられる。

私を導いてくれた男の子はいつの間にか居なくなっていた。






なかなか内容が濃かっただけに、所々飛んではいるが記憶に残る夢だった。
兎に角、山と廃村になりかけの集落の雰囲気が不気味で、特に山の中は人の領域ではないのだろうと思えるほどだった。

因みに助けてくれた男の子は近所の顔見知り(一緒にポケモンする程度)の子に瓜二つで、夢の中で味方だと思った要因だと思われる。