話題:今日見た夢



夜半、目を覚ますと天井に咲く花が目に入った。
綺麗な花ではなく、禍々しいもの。
肉のような質感で窓から僅かに射す青白い月の光が反射して、ねっとりとした艶を放っている。
鋸刃のような歯が生えている柱頭は窪み、例えるなら口のようで、それを囲う肉色の花弁は4枚。それが天井に根を張っていた。
花弁の数が一枚足りないが、形はそう…ラフレシアに似ているかもしれない。
何故こんな所に花が?
寝惚けて妙な夢でも見ているのだろうか。
ボンヤリとした意識の中、そんな事を考えつつ瞼を下ろす。

ぴちゃりと音がする。枕の隣で濡れた音がやけに耳につく。
何事だろうと、目を開き隣へ向けた。
隣の布団には母が寝ている。その頭が潰れていた。下顎しか見当たらない。
代わりに本来、頭がある位置にねっとりとした黒々とした何かが蠢いている。それは天井から伸びており、それに沿って視点を上げると花が咲いていた。

嗚呼、これは根だ。ぴちゃぴちゃと粘ついた音が耳にまとわりつく。
母の血肉を啜るのは人喰い花か。
母はどう見ても死んでいる。頭が無いのだ。生きている訳がない。

それを悲しむ間も無く、家族を貪るそれを一瞥すると家を飛び出した。
煌々とした月が明るい。街灯がポツリポツリと照らす深夜の住宅街はやけに寒々としていて、足音がやたらと反響する。それに自身の嗚咽が混じり、一つの音となる。

何なのだろうあれは。
どうか悪い夢であってほしい。
こうして外へ飛び出しているのも、悪い夢を見て寝惚けた故の行動だと思いたかった。
デタラメに彷徨い続けると、やがて辿り着いた公園で一夜を明かした。ベンチに座り込んだまま、眠る事なんて出来やしなかった。

朝になり日が昇る。
帰っても大丈夫だろうか。
まだアレは居るのだろうか。
母はどうなってしまっただろうか。
そもそもあれは単なる悪夢で、私が居ない事に気付いた母が「あんた何処に行ってたの」と叱ってはくれないだろうか。
ぐるぐると巡る思考にそんな期待を込めて元来た道を戻る。自宅へ着く頃には日が大分、高くなっていた。

家のドアの前まで来たが、時間帯の所為かやけに静かだ。
ドアノブを捻り家へ入る。
人気のない家の中、母がどうなってしまったのかを知る為に寝室へ向かうと、飛び出して半開きのままにになった襖を開けた。
四畳半の和室に布団が二つ並んでいる。片方は私のもので、クシャクシャに乱れたそれは慌てて抜け出した事が伺える。
そして、その隣には母の布団。
白い壁を線状に赤い飛沫が散ったその下に、母だった肉塊が転がっていた。頭が無い事さえ除けば、まだ眠っているかのように、布団に乱れはない。
天井に咲いていた花は何処にも見当たらなかった。
きっとあの根を使い、次の食餌を求め何処へと這っていったのだろう。

「お母さん」

声を漏らすが返事は無い。
それはそうだ。声を出す為の口は下顎を残して無くなっている。

「お母さん」

その布団は血でぐっしょりと濡れていた。どう考えても致死量。
そもそも生きる為に最も重要な器官がごっそりと無いのだ。
それでも、嗚咽で声が詰まり枯れてしまっても、母を呼び続ける事を止められなかった。




とまぁ、やけにリアルで生々しい夢を見た所為で殆ど寝られなかったので、今日の仕事はフラフラな状態でこなしてきた。
それにしても、現実世界に夢に出てきたような化け物が居なくて本当に良かった。
目覚めた瞬間、思わず口にしてしまう程、そう思った。

取り敢えず、寝起きに取ったメモを元に書いたが、記憶に残るくらいインパクトの強い夢だった。