話題:今日見た夢



赤く光る川が流れている。

闇夜に浮かび上がるそれは、遠くから見ればまるで血管のようだ。
それは山肌を舐めるように流れていくと、触れたもの全てを焦がし焼き尽くした。

テレビやラジオではそんな映像が流れ、広範囲に渡って避難命令が出ている。
私は避難の為、近所の河川敷を歩いていた。
周りには同じように避難を始めた人達で溢れている。
目指すは山から遠く離れた平野部。
此処以外の地域によっては、沿岸部を目指している人達も居るのだろう。
兎に角、山間部から出来る限り離れなければならなかった。

風に乗って微かに何かが焦げる臭いが鼻をついた。
ふと、風上に目を向けると遠くに山のシルエットが赤く浮かび上がっている。
至る所から溶岩を噴き出しているそれは、私が暮らしている県を代表する立派な山だった。
その麓にある町は流れ出ている赤い濁流に飲まれ、焼き尽くされているようだ。

離れているとはいえ、止めどなく溢れるそれは軈て此方にも到達するだろう。
一旦止めた足を再び動かすと、人波に混ざり目的地を目指す。

長い距離を移動し、目的地へ大分近付いた頃には既に日が登り辺りは明るくなり始めていた。
避難を始めたばかりの頃、周りに大勢居た人々は疎らになっていた。
私が遅れをとっているのか、それとも私が周りを置いてきてしまったのかは分からない。

ひたすら前に向けていた目を後方に向けると薄明かるい空の下、幾つも列なるようにして聳える山々から流れる溶岩の赤い光がよく見えた。
一晩経っても未だ連絡の取れない家族を案じつつ、先を急いだ。



どうやら山間部から離れても安心は出来ないようだ。
目指していた町に無事に到着し、身体を休めているとやや離れた所で悲鳴が上がった。
思わずその方へ首を向けるとアスファルトの道が割け、赤い溶岩がじわじわと溢れていた。
その後は此処へ来るまでの道程の焼き直しだ。

ただひたすら走った。

辺りには悲鳴と怒声が響き、混乱する人々で騒然としている。
その間にも所々で地面が割け、溶岩が湯水の如く溢れていた。

逃げ惑う人の波から抜けると、がむしゃらに道を駆ける。
確かこの町には空港があった筈だ。
頭上にある標識に目をやると、それが指し示す方へ向かう。

その道すがら、何度か溶岩が溢れ出る様を目にした。
それは周りにあるものを焼くと炎を上げ、町に広がり始める。
その炎を回避しつつ空港へ向かう途中、一軒の店が目に入った。
私以外の人間が炎から逃げ惑う中、その店に居た女の人は慌てる様子もなく、店の中を片付けている。
思わず逃げないのかと訊ねると、私は足が悪くて逃げられないからいいのよと云い、そのまま炎に飲まれ見えなくなった。

町を抜けると空港はすぐだった。
飛行機で避難しようと集まる人々で溢れている。
その中に家族は居ないか確認しようと近付くと押し寄せる人の波に飲まれ、気付けば飛行機に押し込まれていた。

いや、待ってくれ。
まだ家族の安否が分からないんだ、降ろしてくれ。

そう乗務員に詰め寄ると、そんな時間は無いから諦めてくれと無理矢理席に座らせられた。
その直後、大きな音を伴い機体が揺れると滑走路を走り出す。
身を乗りだし、小さな窓から外を見る。

次々と飛び立つ飛行機のどれか一つに家族は乗っているのだろうか。

それとも…。


家族の名を呼ぶと同時に飛行機は空へ舞い上がった。
機内アナウンスによれば、このまま某国へと向かうそうだ。





久々に記憶に残る濃い夢を見た気がする。