話題:今日見た夢



恋人と町をさ迷っていた。

知っている町の筈なのに何故か目の前には知らない景色が広がっていて、二人ではぐれないように手を繋いだ。

ゴチャゴチャとした町並みには多くの看板や簡易的な露店、バラック小屋、低層ビルが所狭しと並んでいて、近代的な発展から置いてきぼりにされてしまったような印象を受ける。
歩道と車道の境のない道は狭く、舗装されていないのか足裏に伝わる感触はザリザリと砂っぽい。
路上はゴミだらけで沢山の人々で賑わっており、そこら辺で光を放っているネオンの毒々しい色が目に痛かった。
ビルの壁にはスプレーで落書きされていたり、貼り紙がベタベタに貼り付けられていたりと、いかにも治安が宜しくない感じだ。
隣を歩いていた彼女がギュッと私の手を強く握るので、大丈夫だよとその手を握り返した。

幸いにも誰かに絡まれたりする事はなく、町を抜けると唐突に近代的なオフィス街へと出た。
此方は整備された歩道と車道には黒々としたアスファルトが敷かれ、ビルの壁には貼り紙は勿論、落書きも無く小さな紙屑一つ落ちてはいない。
先の町とは比べるまでもなく清潔で、あまり人も居なかった。
どれだけ歩いても脇を通る車道を車が通る事は無かったし、たまにすれ違う人は誰一人として此方に目を向ける事はなく、ただただ何処かを目指し歩いていた。

いつの間にか夜になっていたらしく、ふと見上げた空は暗く、星どころか月さえも見えない。
光といえばビルの窓から漏れる点々とした明かりのみ。
黒い塔のように聳え立つ高層ビル群は夜闇の所為か、或いは高すぎるのか頂上が見えなかった。
その代わりに闇の中に赤いネオンサインが明滅しているのが見える。

隣に居る恋人に目をやると彼女と目が合った。

街に出たからきっと帰れるよ。

そう云うと彼女が微笑む。


どれくらい歩いたのかは分からない。
時折、彼女に名前を呼ばれて顔を向けると『何でもないよ』と悪戯っぽく彼女が笑う。

暫くそんな事を繰り返していると、今までしっかりと繋いでいた私の手から自身の手を離し、彼女が駆けていった。
慌てて追い掛けると、漸く見知った街並みの中に出る事が出来た。

これで帰れるね。

すぐそこで私を待っていた彼女が満面の笑みを浮かべた。

再び二人並んで駅へと向かう。
今度は手を繋ぐ事はない。

ダラダラと歩いて行くと古い造りではあるが、大きな駅に着いたので改札を抜けるとホームへと向かった。
古びているが広いホームには私達二人以外に人は居ない。
帰る方向が互いに違うので別れを告げる。

『バイバイ』

そう云って、彼女が小さな手を振った。