話題:今日見た夢



バスに乗る。
バスと云ってもマイクロバスを更に小さくしたような車で、どちらかといえば座席が沢山あるワゴン車のようなものだったが。

狭い車内にはスーツを着たサラリーマンや学生等、様々な面々が窮屈そうに座っていたが皆一様に『乗る電車を間違えた』と云って笑っていた。
かく云う私も彼らと同じで乗る電車を間違え、下りの電車に乗ろうとしたら『いつ来るか分からない』からと、このバスを勧められた一人だった。

バスが満員になると運転手がドアを閉め、いよいよ出発する。
始め気の合う乗客同士で会話をしていたようだったが、時間の経過と共に車内は静かになっていった。

早く目的地に着かないだろうかと車窓から流れる景色を眺めていると、不意に子供の声が聞こえてきた。
何となく視線をその方に向けると、先頭の席に座る乗客の顔を覗き込みながら『ねぇねぇ』なんて声を掛けている。
しかし、相手が寝ているのか無視されたのかは分からないが、暫くすると諦めたように隣の乗客に同じように話し掛ける。
しかし、またもや無視でもされたのか不機嫌そうな顔をすると、そのまた隣の乗客へ話し掛けていた。

その様子を眺めながら、あんな子供は居ただろうか?ふと、そんな事を考える。
親子連れが乗っているのだろうかと思ったが、親らしき姿は無い。
それに執拗にまとわりつく子供を誰も注意したりしないし、それどころか膝に乗られたり顔を覗き込まれたりしても何も居ないかのように寝ていたり、ぼんやりしている乗客しか居ないのも妙に感じた。

ああ、きっとあれは人間ではないのだろう。
何故私にしか見えていないのか分からないが、知らないふりをしていた方が良さそうだ。

不意に寒気を感じた私は携帯を出すと、黙ってその小さな画面を注視した。
その間も子供の声は此方へと近付いてくる。

そして、

『ねぇねぇ』

携帯の画面と私の視線を遮るようにして、男の子の顔が視界へと入る。

突然の事にギョッとしたが何とか悲鳴を堪えると、あくまで目の前の子供が見えていないように振る舞った。

『ねぇねぇ、見えてるんでしょ』

そう云って私から目を離さない。
妙に色白で整った顔立ちだったが、無表情で此方を見つめるその姿は不気味だった。

暫く私の顔を覗き込んでいたが、何の反応も示さないからか諦めたのか男の子は隣の乗客の方へと行くと、軈て後ろの席へと移動した。

やっと行ったか…。

ほっとすると、硬直していた姿勢を直し携帯をポケットにしまい視線を上げる。



『やっぱり見えてたんでしょ?』



上げた視線の目と鼻の先に、逆さになった男の子の顔があった。