話題:今日見た夢




広く、少々古めかしい建築物…子供達の声が反響している。

自身が通っていた小学校に私は居た。

大勢の児童が駆け回っている廊下は緑色の塗料が剥がれ斑、或いは劣化したタイルが一部砕けて欠けていたり、白い壁は所々がくすんで黒くなっている。

妙に長い廊下を歩いていると、やがて突き当たりのドアにぶつかった。

こんなドアあっただろうか?
少なくとも私が子供の時にはこんなドアは無かった筈だが。

見覚えの無いドアを前にそんな事を考えていると、いつの間にか数人の子供達が周りに集まってきていた。

『開けてみて』

近くに居た少年がそう云う。
云われるがままアルミ製のそのドアに手を伸ばす。
だが本当に開けてしまっても良いのだろうか。
ふと、そんな事が頭の中を過る。
何と云えば良いのか…どうにも嫌な予感がした。

いつまで経ってもドアを開けようとしない私に痺れを切らしたのか、少年は私の前に割って入るとドアを開けた。

ドアの先には何もなかった。
否、何もないと云うよりは何も見えなかった。
ドアの向こうにはただただ闇が色濃く広がっていた。
廊下から蛍光灯の明かりが多少漏れている筈なのに、漆黒が続くばかりで広さも奥行きも全く分からない。
黒く塗り潰した壁だと云われれば、納得してしまう程に其処から先は真っ暗だった。

あまりの暗さにその場に立ち尽くしていると入らないのか?と少年が此方を見上げる。
それに対し、私は首を横に振った。
嫌な予感がすると云うと『そう』とだけ云い、少年はドアの向こうへと入っていった。
それに続いて周りに居た他の子供達も闇の中へと消えていく。
その後ろ姿を私はただ見送った。

暫くその場に居たが子供達が出てくる事はなかった。
ただ中の空気が動いているのか、ひんやりとした埃っぽい空気がドアの向こうから漏れ出ていた。
それは徐々に鉄臭い、生臭い臭いに変わっていくとペタペタと足音を立てて何者かが近付いてくる。

子供達が戻ってきたのだろうか?
否、それにしても…。

思わずその場から後ずさる。
何かが可笑しい…そう思った。

足音が止まる。



ヌッ


効果音を付けるとしたら、そんな音だろう。
闇の向こうから白い人影が顔を覗かせた。

子供達ではない。
大人程の体躯の人型。
青黒く血管の浮いている真っ白で張り付いたような皮膚のそれは服を着ておらず、全身の骨が浮き上がっている。
毛髪の無い頭は丸く、鼻の穴のような窪みと鋭い歯を剥き出しにした亀裂のような大きな口以外に顔のパーツは何も無い。

これは人間ではない。
一瞬にしてそう判断した。

そして何よりもその白い皮膚に飛び散った大量の赤い染みが目を引く。
水気を残し滴り落ちるそれは、恐らく子供達のものだろう。

何故か子供達の悲鳴は聞こえてこなかったし、何分これが出てきた場所は無明の闇だ。
中で何があったのかはさっぱりだったが、一つだけ分かるのは子供達がこれに殺されてしまったであろう事だけだ。

そいつは私が見えているのかいないのか、ぬっと伸ばした長い首を傾げながら此方を見ているような仕草を見せた。
薄く開いた口から生臭い息が漏れ、酷く気持ち悪い。
それでも声を上げたりせず堪えていると、ふいと私の後ろへと首を伸ばす。

後方で子供達の悲鳴が聞こえた。

一瞬、ほんの一瞬の間にそいつは私の横をすり抜けていった。
振り返ると逃げ遅れた子供を捕まえ、頭から齧りついていた。

逃げなければ…あれが気を取られている内に逃げなければ。
そう思ったが脚が動かない。

ぐちゃぐちゃと肉を咀嚼する音がする。
痙攣する小さな手足が見える。
何ともいえない異臭が此方に漂ってくる。

あっという間に半分程食べ終えると、口元を赤く染めてそいつは此方に振り返った。
手にしていた肉塊をその場に転がすと、ゆっくり、ゆっくりと此方へ向かってくる。



次はお前だ。

そういう事だろうか。
逃げようと思ったが私が居るところは廊下の突き当たりで、逃げるとするならあれが出てきたドアの向こうくらいだ。
だが、どうなっているのか分からない其処に逃げ込むという選択肢はない。

ならば…。

近くの窓を見る。
逃げ場がないなら此処から行くしかない。
直ぐさま鍵を外すとすんなりと窓は開いた。
だが其処は校舎の最上階で、身を乗り出すとその高さに目が眩みかけた。
しかし、あれはすぐ側まで迫っている。
躊躇っている暇はなかった。
食われるくらいなら、ほんの僅かでも生き残れる可能性がある此方を選んだ方が良いだろう。

もう少しで捕まるといったタイミングで窓枠に立つと、そのまま私は空を舞った。







久々に臭いを感じるグロテスクな夢だった。
最近、楽しい雰囲気の夢(詳細は覚えていないが)ばかり見ていたので油断した。
それにしても何故、楽しい夢ほど内容を覚えていないのだろう。