話題:今日見た夢




氷で覆われた町にいた。

乾燥し、草花の姿のないその町は、人や周りの自然…何もかもに生命の温かみが感じられず、死んだように静かで酷く荒涼としている。

私は町全体を見下ろせる高台にある、とある施設を訪れていた。
所々が崩れた白いコンクリートのその建物は、何処か寂しげな印象があり、一見して廃墟のようにも見えた。

施設の中に入ると外よりも冷えきっており薄暗い。
この施設を管理しているという老人に案内され、階段で地下に降りていくと其処は更に薄暗く、防寒具をしっかり着込んでいるにも関わらず酷く凍えた。
あまりの寒さに階段が凍り付いているらしく、ブーツの底が貼り付いてバリバリと音を立てる。

階段を降りきると薄暗い室内をライトで照らす。
自分の白く浮かび上がる吐息からライトを逸らし、足元を照らすと透明な氷の床が見えた。
恐ろしいほど透き通ったそれの奥には、底が見えないほどの闇が広がっている。

案内人である老人によれば、現在町がある土地はかつて水の底に沈んでいたそうで、この氷はその水が凍結したものの一部で溶けてしまったら最後、町は忽ち水に飲まれてしまうそうだ。

それは恐ろしい…そんな事を思いながら周辺を歩き回る。
暫く辺りを歩いていると、びしゃりと水の跳ねる音が足元からした。
恐る恐るライトで照らすと足元に水が溜まっており、よく見れば氷一枚隔てた闇からゴボゴボと泡が上ってきている。

これはヤバい!

咄嗟にその場から離れると、血相を変えて走り出した私に驚いたのか案内人の老人がきょとんとした様子でこちらを見ていたが、氷の異常を伝えると慌てた様子で早く階段を上るように声を荒げる。

素早く階段まで移動すると、ブーツの底が貼り付くのも構わずに急いで上っていく。
階段を中程まで上ると下の方からバキバキと固いものが砕ける音が響き、その刹那、ザアザアと水の溢れる音が聞こえてきた。
それから逃れるように階段を上り続けると漸く地上へと出る事が出来た。

息を切らせながらその場に踞ると、老人が此処まで来れば大丈夫だと云った。

一体どうしてこんな事に。

そう呟くと老人は呼吸を整えつつ口を開く。
彼が云うには、此処の氷は最近になって徐々に溶けていたという。
地下はあの通り冷えきってはいるが、氷の下の水が何らかの理由で温まっていたのだろう。
何故、こんな事になったのかは分からないと頭を抱える。

ふと、この氷が溶けた水の行き場を思い出した。

『町はかつて水の底に沈んでいた』

それを思い出したと同時に、足下から地鳴りが響く。
一瞬、訳が分からずギョッとしたが、すぐにこれから起こるであろう事を予測すると建物の外へと飛び出し、町全体を見下ろせる崖まで走った。

其処で見た光景に声が出なかった。

四方を山や高台で囲まれた擂り鉢状の土地にある町。
揺れを伴う地鳴りにより、壁のようになっている土地の表面が内側から押されるように弾けたと思うと、ダムの放水を彷彿とさせる勢いで大量の水が流れ込んだ。
流れ込んだ水は巨大な津波となって町を襲うとあっという間に、全てのものを飲み込んでしまった。

私には、それをただ呆然と眺める事しか出来なかった。