城(利きり)




※二人は出来てます。





「もう直ぐ土井先生帰ってくると思いますよ」
「そう」

長期休暇。居候してる土井先生の家へ利吉さんが遊びにきてくれた。
お仕事も順調みたいで、顔色も良い。

でも、機嫌はあまり良さそうじゃないな。

俺はお構いなくと言われる前にお構いなく薄ーい粗茶を利吉さんに出した。
いつものことだけど。

お礼を言って利吉さんは少しお茶を啜り、熱いと言った。

「あ、ごめんなさい」

俺にお茶を突き返す利吉さん。

「はいはい」

俺はそれを受け取って利吉さんのために冷ます。ふー、ふー。
息を吹き掛けて。

そんな俺を楽しそうに眺めながら利吉さんはやっと少し笑った。

「相変わらず、土井先生の家は狭いね」
「そりゃ、引っ越してませんからね。ふーっ」

改築だってしてない。する予定もない。
土井先生は快適に本が読めれば良いって思ってるみたいだし、引っ越しする気もないのだ。

「山田先生の家はここより広いと思うけどなぁ」
「ふーっ。何、他人ごとみたいに言ってるんですか。山田先生の家ってことは利吉さんの家でしょ」

そうだね、と利吉さんはすまして言った。
俺はだいぶ冷めたお茶をそんな利吉さんに差し出した。
だけど利吉さんは受け取ってくれない。

「飲ませて」

にやりと笑って小さく言った。
もー、信じらんない!
土井先生がもうすぐ戻ってくるって言ってんに。

「会いたかった」

湯呑みを持って動けない俺を見詰め、利吉さんが囁く。

「会えない間、ずっときり丸のことを考えていた」

胸がどきどきする。
利吉さんの鳶色の瞳が俺を支配する。
少しでも力を抜くと、湯呑みを落としてしまいそうだ。

「喉はからからだ」

利吉さんは最後に口の端を上げて短く言う。

「潤して」

ああ、もうっ。ずるい顔っ。

俺は湯呑みを持ち上げると、温くなったお茶を少し口に含んだ。
そのまま利吉さんに近付いて上から唇を重ね、薄く開いた口にお茶を流し込んだ。

利吉さんはそれをごくりと喉を鳴らして飲み込む。
湯呑みが空になるのはすぐだった。





「…ありがとう、きり丸」
「満足っすか」
「うん。お陰様でやる気出てきた」
「…良かったっすね」

俺にあれだけさせたんだから、やる気出してもらわないと困るよ。

「私達の将来の為に稼いでこないといけないからね」

わ、本当にやる気満々になってる。
恥ずかしかったけど、やって良かったかもしれない?
利吉さんは上機嫌だ。

「きり丸、将来はどんな家に住みたい?」

にっこり幸せそうな笑顔まで浮かべて俺の手をぎゅっと握った。

だから、もう直ぐ土井先生が帰ってくるんですってば。
こんなところ見られたら恥ずかしいでしょっ。

「城に住まわせて下さい」

冗談言って、俺は急いで利吉さんの手を振り解いた。
でも、駄目。

「城、かぁ。…分かった。城ね」

利吉さんはまた俺の手をぎゅっと握ってにこにこ言う。

何か…利吉さんの冗談って冗談に聞こえなーい。

「盗ってくるから、キスして」
「結局それっすか!」
「じゃあ、行ってらっしゃいのキス」
「……」

やること変わらないじゃんって叫びたかったど、キスくらいの要求のうちに折れた方が良いかもしれない。
俺の考えを見透かすように利吉さんが頬を寄せてくるし。

…仕方ないひと。

「行ってらっしゃい、利吉さん」

ちゅっ。

あー、もう、恥ずかしい!

恥ずかしさのあまり、頬に手を当てて俺はくるりと利吉さんへ背中を向けた。

「行ってくる」

後ろから寄越された凛々しい声。
振り返ると、もう利吉さんの姿はなかった。

「あ…」

その代わりに現れた土井先生。

「ただいま。今、利吉君がお前の為に城を盗ってくるって言ってたけど…お、おいっ」

俺は先生の言葉を最後まで聞かずに家を裸足のまま飛び出した。

城なんて要らない。要らない!

「利吉さんっ!」

愛しい後ろ姿に駆け寄る。
利吉さんはちゃんと俺の気配を感じて振り返った。
浮かぶ驚いた表情。

「きり丸!」

ふわりと抱き上げられた。
足に付いた土も払ってくれる。
その優しい扱いに俺は歯を食いしばる。

まずい。泣きそうだ。

「どうしたんだい?」

ねぇ、利吉さん。本当は城なんて住みたくない。小さな家でも良い。
好きな人と一緒に居られたら何でも。

「…城なんて要らない」

あなたが居れば。

俺は利吉さんにしがみ付いて涙に耐えた。





終わり。
きりちゃんちょっと調教済みですね。
書いてて鳥肌立った…(じゃあ書くな)。
利吉さんの変態ー!












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