背中(滝きり)




戦輪の自主トレを終えて、輪子と中庭を歩いていると、芋が焼ける良い匂いが前から漂ってきた。

同時に耳へ届く、聞き馴染んだ声。

「滝夜叉丸! 焼き芋食べない?」
「滝夜叉丸先輩と呼びたまえ、きり丸君!」

私に生意気な笑顔を向けたのは一年は組のきり丸だった。
落ち葉の中から食べ頃の焼き芋をころりと転がし、私を上目遣いで見る。

冷たい秋風が私ときり丸の髪をさらりと揺らした。

「食べるんすか、食べないんすか」
「…食べてやる」
「まいどっ。特別価格、5文になります」

な、5文!?

「待て。小松田さんが集めた落ち葉に、芋もどうせ食堂のおばちゃんに貰ったんだろう。つまり元手0文だ」
「賢い人って嫌いじゃないっすよ」
「…それが何故5文になる」

聞いてみると、きり丸はまた笑った。
焼く手間賃っす。平然と言うのだから可愛くない。

だけど、ほかほかと湯気を上げる焼き芋をずいっと差し出され。

「熱いから気を付けて下さいね」

と、同じ口で可愛いことを言うから、私は思わず5文払ってそれを受け取ってしまう。

きり丸の手を。

「…??」
「随分と冷たい手だな」

ずっと焼き芋の番をしていたからだろう、芋ごと掴んだその手は指先まで冷えていた。

自主トレ上がりで少し火照った私にはそれが気持ち良い。

私は何となくさすってやった。
それを他人ごとのように眺めていたきり丸。

「あったかい…」

ぽつりと呟いた。

そうだろう。この滝夜叉丸が温めているのだからなっ。

だが、私が上機嫌で笑っていると、きり丸は突然はっと顔を上げた。

「駄目、芋が冷えちゃう」
「芋…?」

そうだった。私は5文で焼き芋を買わされた。

「美味しいから食べて!」

やっぱり要らないとか、きり丸君が食べたまえとか、言う暇もなく私の手に芋が押し付けられる。

焼き芋なんかより、冷たい…方が良かったのに。

私が黙って憮然としていると、きり丸は私の顔を伺って言った。

「その代わり、背中貸して下さい」

返事を待たず、私の背後へ回って隠れる。

そして。

「滝夜叉丸先輩の背中温かーい」

抱き付いてきた。

「こ、こらっ、ひとの背中で暖を取るなっ」

思い切りうろたえる私。
それでも私はきり丸を振り払うことは出来ない。
ぱちぱちと瞬き。
お腹の辺りに回されたきり丸の腕を見下ろす。
白くて細い腕に小さな手。

まぁ、成績優秀な滝夜叉丸なら、この小さな一年生を背中で温めるくらい何でもない!
ほ〜ほっほ。

芋を持ったまま頬を緩め掛けたとき。
抱き付かれたのと同じくらい唐突に、小さな声が聞こえた。

「滝夜叉丸、ありがと」
「……」


私は輪子で焼き芋を半分にすると、大きい方をそっと背中へ回した。





終わり。
よく分からないシチュエーション。
よく分からない関係。
それでも滝きりだと言い張ります!
焼き芋は室町時代より後らしいけど、アニメできりちゃん達食べてました。
都合が良いの大好き!












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