委員長改選騒動その後(こへきり+長)




「長次ばかりずるいっ!」
「まぁまぁ」
「今月の当番表は……そもそもお前が決めたものだ」
「それでもずるい!」
「……まぁまぁ」

頭上で言い合う六年生二人に挟まれて、俺は苦笑いを零していた。因みに場所は図書室。夜間、だ。
俺と中在家先輩が図書委員会の当番。俺の恋人でもある七松先輩は利用者だ。たぶん。
自信がないのは七松先輩が俺を抱いて受付に座っているから。暖が取れるのは嬉しいけど、誰か来たら困るなぁ、と俺は思った。
七松先輩は中在家先輩と同室だ。当番のことを知っていて来たらしい。
俺と中在家先輩はこのところずぅっと固定されたように二人組で当番だったのだ。
中在家先輩は寡黙で笑顔が不気味だけど仕事が速いし丁寧なので、一緒だと俺はとても嬉しい。
でも七松先輩はそれに嫉妬していた。図書室へ入るや否や、俺に引っ付いて。中在家先輩にぶちぶちと文句を言っている。

「黙れ、小平太」
「私を除け者にするのか。きり丸の恋人は私だぞ!」
「……縄標投げるぞ」

ふひ、と中在家先輩が笑った。筆を走らせていた督促状から顔を上げると例の笑顔があった。怖い。

「ああああ、黙らせますから、中在家先輩、どうぞお気を鎮めて」

俺は急いで背後にいる七松先輩を肘で軽く小突く。

「ちょっと七松先輩、図書室では静かに。仮にも元図書委員長なんだからそれくらい出来ますよね」
「しかし……むぅ」

元図書委員長。一週間前、学園長の突然の思い付きで委員長改選が行われ、体育委員長だった七松先輩が図書委員長になったりしたのだ。色々あってすぐ元鞘に収まったのだけれど。
ほんと大変だった。七松先輩はどちらかと言うと地味な図書委員会で活動するにはちょっと元気が良過ぎたから。
そう、適材適所。能力に相応しい立場にあれ──。
当番表が作られたのはその騒動の際だ。
七松先輩はどうしても俺と組みたかったらしく、当番表の上で俺と先輩の名前はぴたりと寄り添っていた。
職権乱用。そんな言葉が頭の隅を過ぎったけれど、七松先輩との時間が増えるのは何だか嬉しいような気がしたので不問にした。目を離すのが怖かったのもある。
だけど。だけど、だ。
当番表を残して七松先輩は体育委員会へ。お陰で俺は中在家先輩と組んでいる。作業が捗る捗る。
棚の整理を中在家先輩に任せ、俺はせっせと督促状を書く。
その筆が乱れた。

「……邪魔しないで下さいよ」
「んー?」

手だ。七松先輩の大きな手が俺の脇腹を撫でてくすぐったい。
聞こえているはずでも、聞く耳を持たない生返事。わざとなのか、その不埒な動きは一向に止まる気配がない。耳元で吐息が響いた。

「私が図書委員長のままだったら、こんなことし放題なのに」

あ、わざとだ。確信した俺は大急ぎで作業を終わらせる。終わらせて、奥の棚にいる中在家先輩を呼んだ。

「中在家先輩、督促状終わりました!」

軽く息を乱した俺と俺を抱くその原因を見て、現図書委員長はにたりとまた笑った。












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