不運と共に(伊きり)




踏み出した足は大地を踏みしめるはずだったのに、思いがけず宙に浮いた。落とし穴。
「わぁっ!」
「きり丸、危ないっ」
「あ……ありがとうございます、伊作先輩」
間一髪、きり丸の体を抱き上げて跳躍、助けたのは伊作だった。
横抱きにされたまま礼を言ったきり丸へ、満足そうに笑い掛ける。男前だ。
「どういたしまして。怪我はない?」
「はい。危ないところでした。あんなところに落とし穴があるなんて、気付かないっすもん」
「君を守れて良かったよ」
「でも……」ときり丸は伊作の足元に目を向けた。
「……代わりに自分が落ちてるっすよ」
そこは落とし穴、だった。
きり丸が落ちそうになったものとは違う。伊作がきり丸を抱いて跳躍した先に、また穴が掘ってあったのだ。
伊作に抱かれたきり丸の目線の高さに地面。浅いが、落とし穴。
しかし、伊作は快活に笑った。
きり丸を地面に上げ、自らも穴から這い出ながら、言う。
「ふふ。僕は君のためなら何度でもこの身を罠へ投げるよ。不運から君を守る盾になろう」
「先輩、くさい」
「そうなんだ。穴の底にちょうど生物委員会の飼ってるヘコキムシが脱走してたみたいで、踏んじゃった」
「近寄らないで下さいね」
「酷いな」
「冗談ですよ」と言いながらきり丸は笑った。
「良かった」
伊作も安堵感に微笑んだ。
保健委員長だし実力がないわけじゃないのに不運で、この前なんて身内だけでなく敵からも忍者に向いてないと言われた。
少し情けないけど、それでもこうして後輩を助けることが出来る。たとえ足が臭くなったとしても。
伊作は屈み込むと踏んでしまったヘコキムシの墓を造る。
「僕も手伝います、先輩」
不運な先輩を厭わない可愛い後輩と、二人で、だ。










終わり。
意外と白い伊作。












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