信じてる




僕は信じてる。
きり丸のことはいつだって信じてるよ。
うん。
だからこれは夢だ。



「信じてる。これは夢だ!」
「お、おい、団蔵っ…おーい…」

何を信じてるって?

「あーあ、行っちゃったね」
「行っちゃったね、じゃないだろっ! 誤解されたっぽいじゃないか!」
「どんな誤解?」
「……」

逃げた団蔵の後ろ姿をけらけら笑って見送った友人。
きり丸はその友人を軽く睨み付けた。

「おー怖い怖い。でもきり丸が僕に襲い掛かってきたんだろ。僕、何もしてないよ」

友人の主張は正しくないようで正しい。
確かにきり丸が襲い掛けたのだ。それを団蔵に見られるとも考えずに。

「だって、そこに小銭があれば飛び付くだろー…」

友人に覆い被さっていた身を起こしてきり丸は力無く言い訳をしてみる。

「治した方が良いね、その癖。でも、せっかくだからあげるよ。ほら、一文」

友人は楽しそうにまた笑った。
きり丸は笑顔でそれを受け取るが、団蔵の顔を思い出して溜め息をつく。

「何か最近、団蔵の奴すぐ機嫌悪くなるんだ」

小銭に目が眩んでいると、特に。
思わず愚痴った。

「可哀想に。ま、僕からするとどっちもどっちな気がするけどね」
「そうか?」
「そうさ…」

よいしょ、と友人は起き上がる。

「大丈夫だよ。団蔵ならきり丸が機嫌直してって言えばすぐ元通りさ」
「うーん」

そうかな…?

きり丸の顔はまだ憂いを帯びている。
そんなきり丸に友人がしなだれ掛かり、耳元に囁く。

「ねぇ、きり丸。信じてあげなきゃ…団蔵の単純さを」

友人の言葉にきり丸は頬を弛ませた。

そうかもしれない。
単純な団蔵。

「それなら、信じてる!」

友人ときり丸は顔を見合わせてくすくす笑い声を上げた。





終わり。












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