我慢
段々寒くなってきた。もうすぐ冬だ。
そう言えば、隣のおばちゃんが今日は寒くなりそうだと言っていた。
家の薄い壁から外の冷気が伝わってくる。
布団から出している頭だけ、どんどん冷える。
でも俺は我慢。平気だ。
今までだって冬は寒いの我慢大会だったから。
でも……寒いーっ!
頭の上をひゅーひゅー音立てて吹いてるこの風は何?寒さが倍増してる気がするんですけど!
「……先生、隙間風吹いてません?」
「そうかぁ? あ、寒いのか? 掛けるもの増やしてやろうか?」
「いえ、大丈夫っす」
って言ったのに、先生はごそごそと自分の着物を持ち出して、ふわりと俺に掛けてくれた。
「我慢しなくて良いんだぞ。大事な生徒が風邪を引いたら困るからな」
先生はにこりと笑った。それから、寒いと呟いて自分の布団に戻る。
「今夜は冷えるなぁ」
あーあ、大丈夫って言ったのに、布団から出たせいで今度は先生が寒がってる。
布団の中でもぞもぞ動いて、きっと体をさすりながら暖めてるんだ。
「先生……ありがとう」
それを見ながら、俺は小さくお礼を言った。
先生のお蔭で俺は暖かいよ。体だけじゃなくて。心も。
俺も先生を暖めてあげられたら良いのに。と考えていたら、思い付いた。
「ね、先生」
「何だ?」
「一緒に寝たら暖かいと思います」
はぁっ?と先生は俺を見た。そして、焦る。
「いや、そりゃあ暖かいって言うか、むしろ暑いくらいかもしれないけど、運動した汗で逆に冷えるかもしれないし」
早口でよく聞き取れないけど、嫌がってるのかな。やっぱり大人は寒さなんて我慢できるのかもしれない。
俺が布団の中からじっと見ていると、先生はようやくゆっくり言った。
「でも、せっかくのお誘いだから断る必要はないよな」
何か、納得したらしい。
「よし、きり丸。一緒に寝よう。おいで」
先生はそう言って俺を引き寄せると、布団を掛け直してくれる。
これで二人とも寒くない。
「先生、寒くない?」
「あ、ああ。暖かいよ」
答えた先生の腕が背中に回される。
俺は先生の体温に安心して、お休みなさいと言って目を閉じた。
「へ…これだけ? もう寝るの?」
布団に入って、寝る以外に何するんだ。
先生の間の抜けた声がしたけど、俺の意識はもうふわふわとしたところにいた。
この後、先生が何をどれだけ我慢したのか、純粋な俺が気付くわけない。
冬はやっぱり我慢大会の季節だった……らしい。