話題:嘘

退職届けを出したその日からわたしはずっと日勤で働いています。本当は遅出や早出、夜勤の予定が入っていましたが、成宮主任が「発達障害があって仕事に支障をきたしているのなら無理はしない方がいい」とシフトを変えてくださったのです。本当にありがたい事だと思います。

さて金曜日の朝、職員室でツンとした先輩から「そういえばハウさん、なんで今日早出変わってもらったの？」と聞かれました。まわりには他の先輩達も居て好奇の目を向けてきました。わたしはまだ退職する事を黙っている立場ですから、何か適当な理由を考えなければと焦り、「わ、わかりません」と咄嗟に答えてしまいました。そして「成宮主任に言われたんです」と続けたんです。ツンとした先輩は「ふーん」と特に興味もなさそうに答えると、それっきり違う方向を向いてまわりの席の人達と別の話を始めました。その時、こちらを向いたままの視線がひとつありました。

夕方、仕事を終えて職員室へ戻ると、一番最初に退職する事を伝えた先輩がひとりで残っていました。「ねえハウさん。この間の事だけど、もしかしてもう成宮主任には話したの？」わたしは問いかけに「はい」と答え「もう退職届けも出しました」と打ち明けました。「あ、やっぱりそうなんだ。いやね、朝早出を変わってもらった話をしてたじゃない。それってハウさんが辞めるからなのかなと思って。あの場では何も言わなかったけどね」「分かりましたか？」「だってハウさん、嘘つくの下手なんだもん。ああいう場で誤魔化すの、あんまり得意じゃないでしょ」笑う先輩の言葉がぐさっと心に突き刺さり両手で頭を抱えました。傷ついたというわけではなくて、図星を突かれて何も言えなくなったという方が適切な表現かもしれません。
やがて他の職員達がぞろぞろと入ってきて、話はそこで終わりました。

ロバートの秋山竜次似の秋山さんが６月末で退職されるので、寄せ書きを書く事になりました。既に何名かの方がメッセージを残しており、わたしの机の上に置いてありました。ボールペンを握ってじーっと色紙を眺めていると、大沢さんが「思い付かないなら適当でいいッスよ」と一言。「いえ、折角なのでいっぱい考えてから書こうと思って。秋山さんにはすごくお世話になったので……」「この人なんか”もう会わないと思うけどさよなら！”って書いてますよ」指差された箇所に視線を落とすと、やけにサッパリした一言が確かに記載されていました。その隣もまたその隣も、結構短めの挨拶が並びます。

秋山さんへ。まだ研修期間だった頃、はじめてお話しましたね。好きなゲームの話ができてとても楽しかったです。秋山さんは明るくてユーモアにあふれているので、どんな職場へ行かれてもきっと人気者になるのでしょうね。どうか体にはお気をつけて、素敵な明日を迎えてください。本当にありがとうございました。長袖のハウより

ボールペンを置いた後、他の人達の寄せ書きと比べてちょっと堅苦しいかな……と思い、任天堂のスーパーマリオシリーズに出てくるキャラクター「ヨッシー」のイラストを添えました。秋山さん、喜んでくれるといいなあ。

拍手してくれた方々どうもありがとね。

＞にまこさんへ
今の職場だからお誘いがかかるだけで、わたしも元々は全然誘われるタイプじゃないよ。不登校や引きこもりを繰り返す度にどんどん友達が減って行ったもの。それに、わたしだったらにまこさんが近くに居たら、ちょっと勇気を出して喫茶店に誘ってみたいと思うけどな……。(おしゃれな人が多いカフェは緊張するから、落ち着いた喫茶店のほうが好きなの。にまこさんはどうかな)

＞初めまして。幾つかの記事を読みました。……の方へ
はじめまして、コメントありがとうございます。わたしのブログからそんな風に良い人柄を感じ取ってくださったなんて、嬉しいです。ちょっと照れました。
他の人が記事を読んでも同じように感じるとは限らないでしょうし、きっとあなたのこころが優しいんですね。